「陽向くん、少しだけママとお話ししてもいいかな?」
「うん、いいよ!」
元気な声が工房内に響く。史哉の腕から降ろされ、陽向は再びお絵かきに戻った。
史哉がゆっくりとした足取りで美織のもとへやって来る。ピンストライプ柄の三つ揃いのスーツを優雅に着こなし、こんなときでさえ素敵な姿が恨めしい。
「あ、あの、ごめんなさい。お話ならまた今度に――」
来たる決別の時を前にして逃げようと試みるが、彼に手首を掴まれてしまった。
「もうこれ以上は待てない」
一刻も早い決着を望んでいるらしい。
美織が話し合いをいくら拒んでも、その希望は受け入れてもらえないだろう。それほど差し迫ったものを史哉の真剣な眼差しから感じた。
あきらめる以外にない。
そう悟り、強張った体から力を抜くと、史哉は掴んでいた美織の手を解放した。



