陽向の弾んだ声を聞いて現実だと思い知る。そこに史哉が立っていたのだ。
東京にいるはずの彼が、なぜここに。
椅子から立ち上がり駆け寄った陽向を史哉が抱き上げる。
美織は吹き竿を立てかけ、思考停止に陥った。
「陽向くん、こんばんは」
「ばんは。おしごと?」
無邪気に問いかける陽向に優しく笑いかける。
「今日は陽向くんのママに大切なお話があってきたんだ」
「たいせつ? おはなし?」
「そうだ。とっても大切なお話だよ」
史哉の言葉を聞き、体が芯から冷えた気がした。
彼が美織にそんなものがあるのだとしたら、昼間の女性の話以外にない。結婚を考えている女性がいるから、もうここへは来られないと言いたいのだろう。
あのときのように美織にとって残酷な言葉を浴びせられるのを覚悟しながら、それでもまだ聞きたくないと心が悲鳴を上げる。



