なにかひとつ作ってから帰ろうか。吹きガラスの中に心の膿をすべて吐き出せば、また明日からがんばれる気がした。
「陽向、ちょっとだけ待っててくれる?」
「いいよー」
陽向は作業台の上でおえかきをはじめた。
吹き竿を手に取り、溶解炉の扉を開ける。むわっとする熱気が、すかさず美織を包み込んだ。
彼のことは、もうなにもかも忘れよう。
そう自分に言い聞かせるのに、頭に浮かぶのは史哉の顔ばかり。目を閉じ、首を横に振ってそれを追い出そうと試みる。
しぶとく居座る想いはいっそ溶かして失くそうと、竿の尖端でどろどろのガラスを巻き取っているときだった。
カタンという物音がすると同時に、背後に人の気配を感じる。操られるようにして振り返った美織は、言葉を失くして立ち尽くした。
(嘘、どうして……?)
幽霊でも見ているのかと自分の目を疑った次の瞬間――。
「おにいちゃん!」



