「はい。アポは入っていなかったので私も無理にお引き留めはしませんでしたが……」
史哉と紀香が一緒にいるのを見て、美織はなにか誤解したのではないか。陽向の父親の役割を果たしたいと言っておきながら、美織に意味ありげに近づいておきながら、東京では親しくしている女がいたのだと。
既読スルーがなによりの証拠だ。史哉が逆の立場でも、そう勘繰るだろう。
スマートフォンを取り出し、美織の着信履歴をタップする。しかし電源が入っていないという機械的な音声が無情に流れるだけ。
史哉の電話に出たくないからか、それともすでに沖縄行きの飛行機の中か。
彼女のことだ。せっかくこちらに出てきたからと羽を伸ばして遊ぶタイプではない。陽向を沖縄に残してきているだろうから、早々に東京を発つだろう。
「有村さん、すぐに飛行機の手配を頼む」
「どちらに向かわれますか?」
「沖縄」
誤解されたままにはしておけない。
「かしこまりました。飛行機と操縦士の手配は任せくださいませ」
「ありがとう」
理恵子に見送られ、史哉はラ・ルーチェをあとにした。



