この場を引き延ばそうとしているのが手に取るようにわかる。
もしかしたら父親から、なんとしてでも史哉との距離と縮めるように命じられたのかもしれない。ソラスティの未来が安泰であるために。
コーヒーのお代わりをもらい、紀香が仕切りなおして口を開く。
「私、お料理教室に通おうと思ってるんです。結婚するなら料理上手な奥さんのほうがいいかなと思って。史哉さんはどんなメニューがお好きですか? 和食ですか? それとも洋食? 私、史哉さんがお好きな料理をがんばって習います」
「紀香さん」
場の空気を無理して明るくしようとする彼女に、静かに呼びかける。
紀香は「は、はい」とわずかに声を裏返らせた。
「料理を習うのは結構だと思いますが、その腕前を僕に披露する未来はないと思ってください」
「……え? ですが、瀬那副社長からは史哉さんとの結婚をぜひにと……」
一瞬目を見開いた紀香の声がどんどん小さくなっていく。



