「ガラス工房ゆくるの夏川と申します。社長の瀬那さんにお取次ぎをしていただけないでしょうか」
契約書の類はべつの部署が管轄しているのかもしれないが、美織はそれがどの部署かは聞かされていない。ラ・ルーチェの人間で知っているのは、史哉ただひとりだ。
「お約束はございますか?」
「あ、いえ……」
わざわざ時間を作らせるのは申し訳なかったため、史哉には今日ここへ来ることすら知らせていない。
「大変申し訳ありませんが、お約束のない方のお取次ぎはできない決まりになっております」
女性が気の毒そうに告げる。
「そうですか……」
当然の対応だ。大企業の社長にアポなしで会おうなんて無謀なのに、彼を知っているというだけで、つい気持ちが大きくなっていた。
さて困った。史哉に会えないからといって、のこのこ帰るわけにはいかない。
せめて誰かべつの人に手渡さなければ。



