十二月、恩納村の空模様は薄曇り。冬が到来したとはいえ二十度近い気温のため寒さは感じない。ちょうど東京の十月くらいの体感だろうか。

ラ・ルーチェが恩納村に展開しているリゾート開発は順調に推移しつつある。

その日史哉は、父親であり会長でもある浩一郎(こういちろう)を伴い現場を訪れていた。

工事車両が出入りし、様々な建設車両が忙しなく動くそこは、ホテル棟やヴィラなどの建築が続々とはじまっている。建設会社の人間が、ふたりが通るごとに作業の手を止め挨拶をしてよこす。

一線を退き史哉に社長職を委ねたが、浩一郎はまだ現役。新しい開発物件には自ら足を運び、その目で進捗や出来栄えをたしかめる。

穏やかな目元にはグループ傘下にいる何十万人もの従業員を守ってきた強さを秘めており、白いヘルメットの下には六十歳を超えたというのに黒く豊富な髪をたたえている。眉目秀麗さは史哉が受け継いだ遺伝子だ。

病気で一時は体重も体力も落としたが、最近は徐々に戻りつつある。

完成予定図を片手に、史哉が先導して敷地内を回る。
海岸線に沿って点在するヴィラは全室オーシャンフロント。一年中楽しめるプールは、海にせり出るように造られ、夕暮れ時にはサンセットを眺められる最高のスポットとなる。