抱きしめる腕は決して強くはないのに、熱っぽさを感じて戸惑う。なんの前触れもなく起こった想定外の事態が美織を混乱させていた。


「美織」


史哉が優しく、どことなく切ない声で名前を呼んだそのとき、部屋の奥で陽向が「ママ」と声をあげる。

史哉は咄嗟に腕を離して美織を解放した。

残念そうに見えたのは錯覚だろうか。


「目を覚ましたみたいだから行ってあげて。約束、忘れないように」


小さく笑った史哉に頷くので精いっぱい。美織は立ち去っていく史哉の背中を放心状態で見送った。

パタンと閉まったドアに無意識にカギをかけ、陽向の寝る場所まで機械仕掛けの人形のように向かう。しかし彼は起きた様子がない。寝言で美織を呼んだだけのようだ。

布団のそばに電池が切れたみたいにストンと腰を下ろした。

(もしかしたら史哉さん、私のことを……)

好きになってくれたのかもしれない。