いくら暗いとはいえ、美織はいい大人。もしもはぐれても、館内ならすぐに見つけられる。
「目を離した隙にどこかに行かれたら困る」
水槽を照らすわずかな光が史哉の顔を照らした。憂いを帯びた目はなにかを訴えかけるよう。
三年前のことを暗に含めたように聞こえて一瞬息が詰まる。
「あれは――」
唇をわずかに動かして言いかけた言葉はあまりにも小さかったため、史哉の耳には届かなかっただろう。
「美織」
史哉が手を伸ばすと同時に、陽向にまで「ママ、おにいちゃんとつなご」と諭されてしまった。
陽向が言うから仕方なく。暗いからちょっとの間だけ。
そう言い訳をしておずおずと差し出した手がそっと取られる。どことなく安堵したように頬を緩めた史哉の顔が、薄明かりに照らされた。
肌の感触、骨ばった指先。触れ合った懐かしい感覚が、美織を一気に過去へと誘っていく。



