史哉が彼女を見やったその隙をつく。美織はカートを大急ぎで押して車へ行き、後部座席に慌てて載せた。 「美織!」 彼の声が空気を裂く。追いかけようとした様子の史哉は、秘書にもう一度「社長、お時間が」と呼び止められて踏みとどまった。 運転席に乗り込んだ美織は震える手でハンドルを握り、アクセルを踏み込む。 (どうして、どうして、どうして――) 苦しさで胸がえぐられたように痛い。とにかく一刻も早くその場から逃げだしたかった。