アメリカの田舎町を思わせる内装がレトロチックなレストランは、昼時を迎えて観光客はもちろん地元の人たちで満席。美織はセレクトショップ・コレッタの渚と窓際のテーブルに向かい合って座っていた。
大きな窓の向こうにはエメラルドグリーンの海が広がり、爽快な眺めだ。

工房の近くまで用事があって来たという渚に誘われ、おいしい沖縄タコスが食べられると評判の店を訪れた。ビーフ、チキン、ツナと三種類から選べるタコスは、島唐辛子のオリジナルソースがよく合う。


「恩納村の大規模なリゾート開発も随分と進んでいるみたいね」


お互いの近況を報告し合ったそのあとで、渚が不意に口にした言葉がタコスを掴んだ美織の手を止める。史哉が社長を務める、ラ・ルーチェのリゾートホテルだ。


「そう、みたいですね……」


それまでの明るい口調が途端に重くなる。

史哉が工房を訪ねてきてから十日が経過。再会してからというもの、心がずっと晴れずにいる。
美織が結婚したと勘違いしている彼は、きっともう二度と現れない。今度こそ本当の意味での決別だと思うと、胸の奥がぎゅうっと捻りつぶされたようになる。