「どうぞ」

 久し振りに聞こえた温かみのある中年女性の声。

 ドア一枚(へだ)てた所為(せい)でくぐもってはいたが、(まぎ)れもなく自分を育ててくれたその人の声だ。

「園長先生……? 先生!」

「モモ! いらっしゃい! 良く来てくれたわねー」

 窓際の陽だまりに包まれた肘掛け椅子から、ふっくらとした影が立ち上がった。

 駆け寄るモモに近付いて、両腕で迎え入れ抱き締める。

 縁側で日向(ひなた)ぼっこをした時のブランケットと同じ香り。

 優しい声、柔らかな抱擁。

「ずっと……来られなくて、すみませんでした……」

 胸に(いだ)かれて今までのことを()びると、自然と涙が溢れ出していた。

 きっとずっと本当は来たかったのだ。会いたかったのだと気付かされた。

「良いのよ、心配しないで。貴女の活躍は動画配信で見られているもの。お陰で久し振りな感じがしないわね」

「動画……配信?」

 聞けば、珠園サーカスのホームページ上、演目ごとの紹介欄に無料動画があるのだそうだ。

 基本的に観覧者には写真・ビデオ撮影は禁じられている為、そちらでのみショーの様子が閲覧出来、二ヶ月に一度は新しい物に差し替えられるのだと云う。