薄い雪がはらはらと灰色の空から舞い落ちる。一月半ばの日だった。気に入りの桃の花の髪飾りや白い羽織に、昨日から降り止まない雪が張りつく。雪を払う為に立ち止まりながら、白洲穂波(しらすほなみ)は先刻の妹の言葉を何度も反芻していた。

 朝方、出かける前はあんなにも楽しみにしていたのに。三年ぶりに見た妹は別人のようになっていて、自分のことを憎んでいた。

「……」

 屋敷の玄関の前に立つと、胸に手を当てて深呼吸をした。国内でも三本指に入る、名門一族である藤堂(とうどう)家……その分家である白洲家。穂波は白洲家の次女にあたる。

 分家と言っても、白洲家は藤堂家の数ある家系の中でも最下位の烙印を押されており、面倒ごとを押しつけられることも多い。一族内では『(ごみ)処理場』と影で指さされ、揶揄されている家だ。

「ただいま戻りま……」

 玄関扉を開けると、ばしゃりと穂波の頭に勢いよく泥水が降りかかってきた。

 ぽたぽたと、髪や頬に流れ落ちる水を眺めながら、ああ、またかとしか穂波は思わなかった。