あたしを歌ってよ


マンションの入り口。

植え込みの前に。

金色に輝く髪の、男性がひとり。



「悠馬くんっ!」



かけ寄って、名前を呼んだ。

悠馬くんはこちらを見て、
「鞠奈」
と、顔をほころばせた。



それから、
「ごめん。こんなところまで来て」
と、小さく頭をかいた。



「ううん、嬉しい」



あたしは笑顔で、
「デビュー、おめでとう!頑張ったんだね」
と、伝えた。



「うん。……やっと、実ったよ。オレの夢」



その言葉に。

悠馬くん達、『ベイビー・サンデー』の。

努力と。

苦労が。

滲んでいる気がした。




「『運命の片想い』、聴いたよ」



悠馬くんはうつむいて、
「うん」
と、うなずいた。



「あの曲を聴いた時、思っちゃったの。あぁ、あたしの曲だって。あたしだけの、悠馬くんの歌だって」



悠馬くんの反応が少し怖くてドキドキしながらそう言うと、悠馬くんは優しい声で、
「うん。鞠奈に届いて良かった」
と、言ってくれた。