マルティンの声が重く解剖室に響く。不審死ーーーそれは事故か事件なのかがはっきりしない死因のことだ。法医学の遅れている日本では、不審死の八割は解剖されていない。

「この人の死因を見つけてあげましょう」

碧子が言い、全員が頷く。蘭はそっと胸元に手を当て、「法医学の、希望に」と呟いて目を閉じる。一分ほど黙祷がされたのち、蘭と星夜がメスを手に取った。メスは英介の体をどんどん開いていく。

「右心血液量はーーー」

「腎臓異常はありません」

順調に解剖が進んでいく中、写真を撮っていたゼルダが口を開く。

「ねえ、このアザって何なのかしら?」

ホワイトボードに血液量などを記入していたルカ、ゼルダと同じように写真を撮っていたマルティン、解剖を進めていた蘭と星夜、解剖を見守っていた碧子と桜木刑事は集まり、ゼルダが指差した首の後ろへ目を向ける。

首の後ろには、まるで蛾のようなまだら模様のアザができている。誰も見たことのないアザのため、全員が首を傾げる。

「とりあえず、検査に回してみましょう」

碧子がそう言い、蘭は再びメスを手にした。