「…あんた,一人?」



狭い家の玄関を見て,男は眉を寄せる。



「いいだろ別に。親は揃って仕事,海の向こうだ」

「あっそ。あんたの言うとおり別にどうでもいい。聞いただけ」

「…お前,名前は」



そう言えば,知らねぇと俺は男2人で少し濡れた前髪を揺らしながら尋ねた。



「まず,あんたは誰」

「どうでもいいだろそんなの」

「は? じゃあお前も聞くなよ」



こいつ,俺が年上だってこと,分かってんのか。

ここまでのこのこ着いてきといて,急に態度がでかい。



「…ったく。竹中 (ゆう)満足か」

「中森…あずさ」

「そうか。あずさ,風呂場貸してやるからシャワーでも浴びてその身なりどうにかしろ」

「は?」

「いいから行け」

「はぁ…もういいわ。あんた完全に変。俺変なやつに誘拐された? もうめんどくさ」



ぶつぶついいくさりながらも,あずさは素直に風呂場を目指して歩く。
 
間違って便所への扉をあけ悪態つくあずさをみながら,俺はキッチンへと向かった。