「……いや、あと一週間しかねえじゃん」


スマホのカレンダーを見て思わずひとりで嘆く。
あの人は、浦野が結婚するって知ったらどうするんだろうか。笑って、おめでとうって言うんだろうな、あの、無理やり口角上げる感じで。

浦野の結婚に対してはおめでとうの一言で済むはずなのに、こころはもやもやして気が張れなかった。どうしても、浦野の幸せの引き換えにセンパイの不幸せを見てしまうからだろうか。


晴れないと先輩に会うことはない。連絡先も知らないし、彼女が教室でどんな風に生活しているかも見たことない。
今ごろあの3階の教室で呑気に授業を受けてるのだろう。あの人のオメデタイ頭は、何を考えているのだろう。

きっと何も考えていないし、俺を振り向かせる作戦だって一ミリも用意していない。俺を見つけて嬉しそうに駆け寄ってくるセンパイに会ったとき、全然嫌じゃない自分がいる。

ふと我に返ったときに、無意識に彼女のことばかり考えている自分に気づいて顔を思いっきり歪めた。




「―――や、まじで。それだけはナイ」



素直になれよ、
頭の中で俺をガキ扱いする浦野が笑っている。


だって俺は、死ぬ気で彼女に好意を向けて欲しいなんて思わない。
じゃあ俺は、あの人がちょっとでも報われればいいと思ってるのか?


“好きな人が幸せならそれでいい”
センパイがそうやって思うだけでいいと思ってるなら。本当はしんどくて、はやく諦めてしまいたいと思っていたら?

センパイの浦野を見る視線や、浦野にだけ見せる表情。トクベツだってわかるから、わかりやすくて。それに気づくのは、自分にそれを向けられてないからで。俺は気づいたら、そこから目が離せなくなっている。

見て見ぬふりをして、自分のでっかいプライドと戦ってる気分だ。

だって約束したから。絶対に好きにならないって。
俺はあの人の前で、ずっとクソガキのままでいればいいだけだ。






─―それから、浦野が結婚するらしいという噂が校内ででまわったのは、6月最後の日だった。