変態御曹司の飼い猫はわたしです

 フレンチレストラン『ICHINOSE』に到着すると、夜景の見える窓側の席に案内された。何故か二人分のナイフとフォークが並べてある。

「よろしければ私もご一緒させていただけませんか?」
「一ノ瀬さんと、ですか?」
「ええ。お食事の邪魔は致しません」

 そうして二人で席に着く。
 周りを見ると、ほとんどカップルやご夫婦のような男女が座っている。一人で食事をしている人はいなかった。一ノ瀬さんが一緒に席についてくれたおかげで、私は浮かずに済んだのだと悟った。

「……私を気遣ってくださっていたんですね。お忙しいのに、すみません」
「違いますよ。今日は偶然一名様で召し上がる方がいらっしゃいませんが、普段はお一人でもお楽しみいただけますよ。……ただ、着飾った貴女はとても魅力的なので、一人にしたらどんな虫が寄ってくるか心配になっただけです。こうして座っているだけですが、今夜は貴女のナイトでいさせてください」
「ふふっ。ありがとうございます」

 恭しく一ノ瀬さんがそう言うので、思わず笑ってしまった。

「そういえば、お姫様のお名前を伺っておりませんでした」
「ふふっ、やめてください。お姫様なんてガラじゃないですから。……三上珠希といいます」
「三上……珠希さん、そうか……やっぱり、君は……」
「?」

 何か思い当たった様子の一ノ瀬さんだったが、「いえ、お気になさらず」と微笑んで誤魔化され、それ以上追求出来なかった。

 フレンチレストランでディナーをいただくのは、昔家族で一度だけ行った時以来。ましてや目の前には、このレストランのオーナーで、芸能人と言われても納得出来そうな程のイケメン。

(緊張してきちゃった……)