一ノ瀬さんは、過保護な飼い主だ。
　私の様子を何度も確かめにカフェにやって来る。

「どう？　慣れた？」
「ふふっ、その質問、今日二度目ですよ？」
「こうしてタマちゃんが働いているのを見たいんだよ」
「俺と珠希ちゃんが仲良くしてるから心配なんだろ？」
「だったらなんだ？」
「もう、冗談はいいですから、お仕事に戻ってくださいね」

　佐藤店長と一ノ瀬さんは高校時代の同級生らしく、本当に仲が良い。度々カフェに足を運んでは、こうして少し談笑して去っていくのだ。

　そこへ、美しいロングヘアを揺らして、華やかな女性が入店してきた。

「いらっしゃいませ」

　女性はカフェ内をキョロキョロと見渡し、一ノ瀬さんを見つけると、呆れたように笑った。一見派手で強そうな女性に見えたが、その笑顔はとても綺麗で思わず見惚れてしまう。

「社長、ここにいらっしゃったんですか」
「あぁ、すまない。そろそろ会議の時間かな」
「はい。社員が待っていますので、お迎えにあがりました」

　どうやら一ノ瀬さんの秘書の方のようだ。極上のイケメンである一ノ瀬さんと並ぶと、大変絵になる。美しいものが並ぶと眼福だな、と思う一方で、心の奥底が痛んだ。

　一ノ瀬さんは素早く席を立つと、私の頭をポンポンと撫でて去っていった。
　去り際、秘書の女性がこちらをじっと厳しい目線で見たような気がしたが……。

「真理亜(まりあ)ちゃんと雅人、昔付き合ってたみたいなんだよねー。俺、真理亜ちゃん狙いなんだけどなぁ。まだ雅人のこと好きなのかなぁ」
「そ、そうなんですか」

　思わぬ情報にドキドキした。あんな美人、ライバルにすらなれる気がしない。

　頭の中で、二人が笑い合う姿を想像して、ショックを受ける。どうしよう、胸がズキズキする。