二人でボーっと富士山を見ていたら、富士山の(ふもと)で何かが蠢いている。
「あれ何だろう?」
 俺が指をさすと、サラが身を乗り出し、途端に険しい表情になった。
「東の国の軍隊だわ……。十万人はいるわね……」
「え? どういう事?」
「今、日本列島は東の国と西の国で二分されているの。ここ数十年は軍事衝突はなかったんだけど……これは大きな戦争になるわね。ここのところ天候不順で東の国に飢饉(ききん)が発生していたから、それが引き金になった可能性があるわ。」
「という事は……、庄屋さんの村は略奪されるって事?」
「あそこは軍隊の通り道だから略奪は避けられない……でしょうね……」
「え! そしたらディナはどうなっちゃうの?」
「女性はみんな凌辱(りょうじょく)されて殺される……かな」
 とんでもない事をサラッと言う。
「そんな……。西の国の軍隊は何をしてるの?」
「西の国は今、政争に明け暮れていて国がバラバラなの。とてもすぐに十分な軍隊を防衛には当てられないわ」
 そう言ってサラは肩をすくめて首を振る。
「俺たちが止めちゃダメなの?」
「地球人たちのやることは、地球人に任せるしかないのよ」
「じゃ、見殺しにする以外ないって事?」
「残念だけど……そうする以外ないわね……」
「そんな……」
 ディナが、みんなが酷い目にあって殺される……それが分かっていて何もできない……そんな話があっていいだろうか……
 俺は目の前が真っ暗になった。
「知らせる……知らせるくらいならいいですよね?」
「まぁ、いいけど、知らせたって結果は変わらないわよ」
「ジッとしてられないんで、行ってきます!」
 俺はすぐに服を着て、庄屋さんの屋敷に飛んだ。
 門番はいきなり出てきた俺に驚いていたが、東の国の大軍が迫ってることを告げたら、一緒に走って案内してくれた。
 居室でお茶を飲んでいた庄屋さんは、慌てて飛び込んできた俺を見て言った。
「おや、お弟子さん、どうしたんですか?」
「東の国の軍隊が来ます! 十万人規模です!」
 俺が早口で告げると、庄屋さんは一瞬目を見張り、そして瞑って何かを考えていた。
 
「このままじゃ略奪されて皆殺しです。逃げましょう!」
 俺がそう提案すると、
「逃げるってどこに? 我々はこの村でしか生きられない。先祖代々のこの土地が我々の命であり、そこが奪われるのなら死ぬ以外ない」
 庄屋さんは悟った風にそう言い放った。
 そして門番の男に叫んだ、
「鐘を鳴らせ! 全員広場に集合させろ!」
 庄屋さんは逃げないという、であれば村人は全滅だ。せめてディナだけでも何とかならないだろうか? 彼女はまだ15歳、人生これからというのに、凌辱されて殺されるなどあっていいはずがない。
 俺は急いで周囲をスキャンする。
 裏の小川で野菜を洗っている女の子を見つけた。ディナだ。
 走っていくとこちらをチラッと見る。
「何か御用ですか?」
 トゲのある声で言う。ご機嫌斜めだ。
「東の国の大軍が来る、ここは戦場になってみんな殺される」
 俺は冷静に説明した。
 ディナは野菜を洗う手を止め、こちらをじっと見る。
「このままじゃディナも、ひどい目にあって殺される、逃げないか?」
「逃げるって……どこへ?」
「安全な、戦争のないところを探して……」
 ディナはため息をつくと、野菜洗いの作業に戻りながら言った。
「庄屋さんは『逃げる』って言ってるの?」
「いや、逃げないらしい」
「だったら私もここで死ぬわ」
「え? なんでそんなにここに(こだわ)るんだ? 死んだら終わりなんだぞ!」
「私は村の人間よ、村のみんなが『逃げずに戦う』って言ってるのに、私だけ逃げられないわ」
「ディナはまだ若い、逃げたって許されるよ」
「……。」
 野菜を強くゴシゴシと洗うディナ。
「方法は……一つだけあるわ……」
「え? どんな?」
 ディナは野菜を洗う手を止め、立ち上がり、涙いっぱいの目で俺を見た。
「マコ様、私と……け、結婚してください!」
「え!?」
「結婚したら私は村の人間ではなくなる……一緒に逃げられるの……」
 俺は絶句してしまった。
「ダメ……ですか?」
「うーん……、け、結婚かぁ……」
「いっぱいいっぱい奉仕します! ……ダメ?」
 ディナは上目づかいで、手を合わせて必死にお願いする。
「うーん……、あ、そうだ! 結婚したことにすればいいよ!」
 俺がそう言うと、ディナは下を向き
「馬鹿にしないで!!」
 そう叫び、震えた。
 俺がオロオロとしていると、ディナはペンダントを外し、俺をキッと(にら)みつけると、
「マコ様のバカ!」
 そう言って投げつけ、走って行ってしまった。
「あっ、ちょっ!」
 俺はかける言葉も思いつかず、ただ、走り去るディナを、見送るしかできない……。
 俺はこれまでイマジナリー連発し、神様気分でいい気になってたが、女の子一人救えない、ただのクズだという事が露呈してしまった。
 はぁ~……
 ため息をこぼしながらペンダントを拾い、(ほこり)を払って眺めて見た。綺麗な漆細工のペンダントには、買った時には付いていなかった綺麗なリボンがあしらわれていた。ディナがペンダントに寄せていた想い、それを投げつけざるを得なかった絶望が胸を(さいな)む。
 ディナにはディナなりの15年間の村での生活があり、村の(おきて)、考え方があるのだ。自分だけ逃げて生き残る事の意味は決して軽くない。それに見合うだけの覚悟を俺が提供しない限り、乗れない話なのだ。
 覚悟無く、思い付きで暴走した俺の軽薄な発想を、心から反省した。
 俺はディナに連れて行ってもらった巨木の枝に転移し、腰かけると村を力なく見下ろした。
 GOWN(ゴーン) GOWN(ゴーン)
 遠く、広場の方で鐘が鳴り始める。
 玉砕(ぎょくさい)覚悟の戦闘準備が始まるのだろう。
 大軍相手にどれだけ抗戦できるだろうか……30分も持たずに皆殺しだろうな……

        ◇

「キャ――――!」
 遠くで微かに、しかし確かに女の子の叫び声が聞こえた。山道の方だ。
 俺は深呼吸をして心を落ち着かせると、イマジナリーを使って遠隔ビジョンで叫び声の方向を見ていった。
 すると、若い女の子が武装した20人ほどの男たちに襲われている。殴られたのか、女の子の顔は右側が腫れあがり、口からは血が流れ、衣服は切り裂かれて組み伏せられていた。
 この世界に干渉してはいけない、サラにはそう言われていたが、髪の毛を振り乱して悲痛に叫ぶ女の子を放っておけるほど、俺は割り切れなかった。
 俺は近くに降り立つと、女の子を俺のそばに転移させ、顔の治療を行いながら言った。
「ちょっとじっとしててね、すぐに治すから」
「えっ!? えっ!?」
 女の子はいきなり治療され始めた事に驚き、何が何だか分からず混乱していた。
 男たちは女の子が消えた事に困惑していたが、俺を見つけると腹を立て、因縁をつけてくる。
「おい! その女は俺たちの獲物だ。返してもらおう」
 女の子の治療が終わると、俺は男たちの方を向き、
「お前たちは何者だ? 東の国の者か?」
 と、淡々と聞いた。
「俺たちはベアル一家だ。東の国が攻めてくる前に、この辺は俺たちが略奪させてもらう」
 ガタイのいい大男はそう言ってニヤニヤと笑う。
「あー、じゃ、お前ら倒しても問題なさそうだな」
 俺もニヤッと笑った。
 大男は
「その細い腕で何ができんだよ? 馬鹿かお前は?」
 そう言うとゲラゲラ笑い、他の男たちも馬鹿にするようにドッと笑った。
 森に響く下種な笑い声に女の子が怖がって、俺にギュッとしがみついてくる。
 彼女を連れて逃げてもいいが、そうしたら別の娘が襲われるだけだ。ここはお(きゅう)をすえておかねばならない。
 その時、空気を切り裂く音が走った。
 Pow(タン)! Pow(タン)
 弓矢が二本、俺の胸に刺さる。
「命中~!」
 男たちがゲラゲラと笑う。
「ひやぁぁ!」
 女の子がおののいて声をあげた。
 しかし、俺は倒れない。俺の体表にはシールドを展開してあるので、矢はシールドで止まっているのだ。これで殺人未遂が成立だ。何があっても正当防衛と言える。
 俺はイマジナリーで男たちの剣や(やり)、弓矢を選択すると温度を三千度まで上げた。
「うわぁぁぁ!」「あっちっち――――!!」
 いきなり光り輝きながら溶け落ちる武器たち。弓矢は爆発的に炎上している。
 武装解除完了である。
「何すんだこの野郎!!」
 それでも馬鹿な男たちは、俺に殴りかかろうとダッシュでやってくる。
 俺は駆け寄ってくる男たちの身体を、イマジナリーで静止させ、持ち上げると時速百キロの速度を付けて吹き飛ばした。
「ぐわぁぁぁ!」「うぉぉぉぉ!」
 彼らは他の男たちに次々と当たりながら、森の斜面を転がり落ちて行った。
 しかし、なぜか彼らは攻撃をやめようとしない。本当に馬鹿なのだ。
「突撃――――!」
 大男の号令で、残りの男たちが一斉に突っ込んでくる。
 むしゃくしゃしていた俺には格好の標的である。
 俺は直径1mの水の玉を出すと、駆けてくる男たちに向けて次々と時速百キロで放った。
「ほら、水魔法だぞ。アクアボール!」
Swash(ビシャッ)! Swash(ビシャッ)
 高速の水は凶器である。男たちは次々と吹き飛ばされ斜面を転がって行く。
 それでもまだ諦めないらしく、誰かが煙幕玉を投げてきた。
 Pow(パン)! Pow(パン)
 俺のそばで次々と爆発し、辺り一面煙が充満して何も見えなくなった。
「キャ――――!」
 女の子が怖がってしがみついてくる。
 なるほど、さすが盗賊団、手練れだ。これでは狙いを定められない。だが、別に狙いを定める必要など俺にはないのだ。
 俺はバスの大きさの巨大な水の塊を出し、敵がいそうな方向に次々と時速百キロで放った。
「メガ・アクアボール!!」
 バキバキと木々が折れる音の間に、あちこちから断末魔の叫びが上がる。
「ぎゃぁぁぁ!」「ぐはぁぁ!」
 俺は声が上がらなくなるまで、しばらく水を撃ち続けた。
 煙が晴れると森だった所は、洪水が襲ったかのようにスキーのゲレンデみたいに開け、夕暮れ空が広がっていた。男たちは随分流されてしまったようで視認できない。一応生命反応はあるので死んではいなさそうだが、略奪はもう無理だろう。
 ただ……、こんな事したって東の国の軍隊の略奪は止められないのだが……。
 俺の足元を見ると、女の子が呆然(ぼうぜん)としていた。
「大丈夫?」
 俺が優しく声をかけると、
「だ、大丈夫……です。あ、ありがとうございます……」
 と、慌てて立ち上がり、引きつった笑顔を見せる。
「それは何より。あ、もしかしてディナちゃんって知ってる?」
「ディ、ディナですか? 友達です。良く知ってます!」
「そしたらこれ、渡してくれないかな? 彼女落として行っちゃったので……」
 俺はそう言ってペンダントを彼女に渡した。
「わ、分かりました。あ……、もしかして……、マコ……様ですか?」
 女の子は上目遣いに聞いてくる。
「え? そうだけど……」
「ディナがね、マコ様の事をうれしそうに話すんですよ。男の人の事をあんなに話すディナは初めてだから……」
 俺はいたたまれなくなって、目を瞑り、大きく息を吐いた。
『ディナ……』
 結局俺はディナを(もてあそ)んだだけになってしまった。俺はディナとどう接したらよかったのだろうか……。
「もしかして……マコ様は神様ですか?」
 女の子は目をキラキラさせて聞いてくる。
 神様……、俺がクリスを初めて見た時そう思ったように、彼女にも俺がそう見えるのだろう。
 しかし、ディナという女の子一人救えない神様などあり得ない。俺は無力感に(さいな)まれながら答えた
「残念ながら……人間だよ。少し術が使えるだけの……」

        ◇

 俺は女の子と別れると、三保の松原へと跳んだ。
 夕凪(ゆうなぎ)の中、霊峰(れいほう)富士はどっしりと静かに、オレンジ色に輝いていた。
 俺はディナが正座していた辺りに座り、ボーっと富士山を眺めた。
 略奪と殺戮(さつりく)は確実にやってくる。ディナも救えない……。
 実戦で確認できた俺の力は異常すぎる。滅茶苦茶手加減してあの強さ、殺すつもりなら何十万人いようが瞬殺できる。まさにチートだ。
 当然、東の軍隊の兵士どもなど俺一人で楽勝だ。しかし……、兵士にも家族がいる。兵士を倒すというのは被害を東の国側に寄せただけだ。
 殿様拉致して洗脳するか?
 いや、ここまで来たら殿様が『中止』と言っても止まらないだろう。乱心したと家臣に斬られて終わりだ。
 そもそも、サラに止められる。俺がこの世界に干渉することは許されないのだ。
 要は略奪と殺戮は運命なのだ。俺が『神の力』だとどんなにイキがっても、運命は変えられない。変えられるとしたら、俺がディナと結婚してやるくらい……、でも……、俺が一生ディナの面倒見るの? ディナだけ特別? 由香ちゃんはどうするの?
 俺は絶望し、無力感に(さいな)まれる。
 富士山は頭を抱えて悩む俺を、そっとオレンジ色に照らした。

         ◇

 城に戻ると、サラは夕暮れの富士山を眺めながらワインを飲んでいた。
 しょぼくれた俺の様子を見て、
「知らせても無駄だったでしょ?」
 あっさりとそう言った。
「みんな逃げない、ディナも結婚してくれなきゃ逃げられないって……」
「あら? 結婚してあげたら?」
「いや、結婚ってそういうもんじゃないし……俺の覚悟のなさを露呈しちゃった……」
 俺もワインを注ぎ、ぐっと一気に(あお)った。
 サラは、しょんぼりする俺をヘーゼル色の瞳で、いたわるようにしばらくじっと見つめ、そして言った。
「辛そう……ね、そろそろ帰る?」
「そうですね……略奪の現場なんて、とても耐えられそうにないです」
「じゃぁ、帰りますか!」
 元気に立ち上がるサラ。
 しかし、俺はうつむいたまま動けなかった。
 早く帰りたい……、でも、このまま帰って……いいのだろうか?
 確かに俺には何もできない。できないけど何かこう……このやりきれない想いを発散してから帰りたい……。
 そして、サラに言った、
「ちょっとだけ待ってください。最後に一発花火上げるんで」
「花火? いいけど軍隊に攻撃しちゃダメよ」
「……。大丈夫です……」
 俺は小道具になる氷山を求めて北極に跳んだ。

        ◇

 空中を漂いながら氷山を探そうとしたが、刺すような寒さが容赦なく俺を襲う。
 北極にはオーロラ観光に来るはずだったのに、今はもうそんな気分ではない。
「う~寒い!」
 俺は身体の周りにシールドを展開してみる。すると、直接寒風が届かなくなって暖かくなった。きっともっと上手い防寒方法はあるのだろうが、今はこれで十分だ。
 しばらく飛び回っていると小さな氷山を発見。
 海面から出てるサイズが3mくらいだから、全長30メートルくらいだろう。十階建てのビルサイズ。
 俺は氷山全体をイマジナリーで捕捉すると、右手を高く掲げ、俺と一緒に伊豆半島上空百キロに転移した。
『エイッ!』
 眼下に伊豆半島、富士山、箱根の山々が広がった。
 ここはもう宇宙、周囲はもう真っ暗で気圧も地上の百万分の一くらいしかない。
 氷山を見ると『プシュー』っと、表面から水蒸気が噴き出している。
 これを軍隊にぶつければ原爆レベルの爆発が起こり、ディナは助かる。
 助かるが……それは被害を別の人に移しただけだ……。
 
 俺は氷山を保持したまま目を瞑り、ディナを想う。
『ディナ……』
 ディナの屈託のない笑顔、照れた時の可愛いしぐさ、柔らかな胸のぬくもり、そして涙いっぱいの表情……
 一つ一つを丁寧に思い返した。
 最後の悲痛な叫び声が、まだ耳に残っている。
 涙が自然とあふれてきた。
 いたいけな15歳の少女が、酷い事をされて殺される。分かってるのに俺はそれを止められない。
 唯一の解決策、結婚して欲しい、という彼女の願いも踏みにじった……。
 最低だ……。
 北極上空で俺はオイオイと泣いた。
 自分の浅はかさ、無力さ、すべてが嫌になって声を出して泣いた。
 そもそもなぜ人類は、こんな殺し合いをするのか? ホント馬鹿なんじゃないのか? 
「お前らいい加減にしろよ!」
 俺は自分も人類の一員であることを棚に上げ、感情に任せて怒り散らす。
 しかし、怒ってもそれが人類なのだから仕方ない。俺にはどうしようもない。
 俺は唇をかみしめながら自らの無力さに苛まれ、そしてまた泣いた。
 泣いても何も解決しない。
 でも次から次へと湧き上がってくる悲しみを、俺は泣くことでしか受け止められなかった。
 こぼした涙は展開したシールドの底で白く凍り、シールドと干渉して『パキッ』と乾いた音を立てる。
 顔はもうぐちゃぐちゃだった。
『……。』
 俺はゆっくりと深呼吸をし、気持ちに整理をつけた。
 そして、顔を上げ……浜名湖の方を見る。
 ちょうど夕陽が湖面に反射し、美しく輝いていた。
 俺は浜名湖の少し右に照準を合わせて叫んだ、
「目標! 名古屋!」
 
 俺は氷山に秒速20キロの速度を付与し、ありったけの想いを込めて西に飛ばす。
 氷山は真っ赤な閃光を放ちながら吹っ飛んでいった。

        ◇

 城に戻ると、サラが火球(かきゅう)となった氷山を見ながら笑っていた。
「あはは、誠は面白いことやるわねぇ」
 火球は激しく光を放ちながら大軍の上空80キロで大爆発して三つに割れ、さらに名古屋の方へと飛んで行く。
 その後何回か爆発を繰り返しながら、最後には溶けて消滅した。伊豆から名古屋まで十数秒の壮大なショーだった。
 爆発があった周囲では激しい衝撃波が地表を襲い、兵士たちは地面に倒れ、馬は逃げ出した。
 俺のささやかな抗議の意思表示だ。
 名古屋の方では『何かとんでもない事が起こる前触れ』として人々が騒いでいる。
 注意喚起には成功したようだ。
 これで少しでも被害が減ってくれればいいな。
 ディナにも、少なくとも轟音は届いただろう。俺からの最後のお別れの挨拶だ。
 想いを受け止められなくてゴメン。身勝手でゴメン。
 俺は君のヒーローにはなれなかった。