あの人は昔からちょっと意地悪なところがあったけれど、私が本気で嫌がることは絶対にしない。むしろ、私が泣いていたら手を差し伸べてくれるような、頼りがいのある男の子だった。四歳年上というだけでも、当時はかなり大人っぽく感じていた。

 そんな彼は、たびたび外国の珍しいお土産を持ってきてくれた。石動グループは海外にもホテル事業を展開しているため、両親に連れられて外国に行く機会が多かったらしい。

 あのガムランボールも、そうしてもらったもののひとつ。『もっと頭がよくなるようにって、これで願ってみれば?』と、なんとも失礼なひと言といたずらな微笑みつきで。

 そして、様々な国の話を楽しそうに聞かせてくれるのだ。難しくてよくわからないことも多々あったけれど、彼が生き生きしているのを見るだけで私は嬉しかった。

 彼が外交官になる道を選んだのも、そういう環境が大きく関係しているのだろう。石動グループは彼の兄が継ぐ気になっているそうなので、現在も好きなことができて恵まれていると思う。

 容姿も頭も、運動神経もいい。他の誰より親しくて、友達とは違う特別な存在。

 そんな彼と〝大人になったら結婚できるんだ!〟って、幼いながらに胸をときめかせていたし、嬉しかったのに──。