「い、いらっしゃいませ!」と声を裏返らせる彼女は、確か帰国してすぐここに来た時に花詠と話していた子だ。一瞬ギョッとしたように見えたが気のせいだろうか。

 微妙な引っかかりを覚えつつもカウンター席に座り、車なのでとりあえず茶を頼む。そういえば花詠にメッセージを送っていなかったなとスマホを取り出した時、店に数人の客が入ってきた。

 なんとなくそちらに目をやると、和服姿の懐かしい顔の男がいる。客を案内していたらしい彼は、俺の視線に気づいて目を見開いた。


「あれっ、悦斗さん!?」


 もう何年も会っていないのにすぐにわかったようで、こちらに向かってくる彼に自然に表情がほころぶ。


「祥、久しぶりだな」
「お久しぶりです! 皆から話は聞いています。ラヴァルさんの件、ウチに協力してくれてありがとうございました」


 人懐っこい笑顔で頭を下げる祥は、花詠に似てとても愛想がいい。軽く首を横に振って「ただ紹介しただけだよ」と言うと、彼はニコニコしながら話す。


「彼、すごく感じのいい人ですね。今日の午後、この茶房にも来てくれたんです。姉ちゃんとふたりで話してたからびっくりしたけど」