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 外はもう暗くて、通り過ぎていく人たちも夕闇に溶けようとしていた。

 馴染みのない街並みを一人、とぼとぼと歩く。同じ学校の人に見られないようにと配慮されたハンバーガーショップは、駅まで少し距離があった。歩きながら私は、自分のすべての言動を後悔し続けていた。

 せっかく、蓮くんと井上さんが私のために開いてくれた会だったのに。

 長谷くんは望んでいなかったかもしれないけど、ちゃんと私の話に耳を傾けてくれていたのに。

 私は何も言えなくて、結局みんなを不快にさせてしまった。

 長谷くんが何かを言おうとした、あの瞬間。やっぱり、私は長谷くんを止めたい、と思ってしまった。長谷くんが何を言おうとしていたのかはわからないけれど、もしそれが修ちゃんの話だと思ったら、気が気じゃなかった。

 私はやっぱり、知られたくないんだ。

 怖い。修ちゃんの事故が私のせいだと知れたら、私はきっとみんなに非難される。長谷くんは中学の頃に私と修ちゃんが親しくしているのを見かけたことはあるはずだから、もしかしたら何か知っているのかもしれない。

 修ちゃんのためじゃない。

 私は今、自分の保身のために、逃げ出している。

 そんな自分が、嫌い。

「……芽依ちゃん!」

 声がして、同時に腕を掴まれた。

 振り向くと、そこにいたのは蓮くんだった。

 ここまで、だいぶ走ってきたのに。……でも、運動音痴の私が全力で走ったところで、誰でも追いつける速さなのかもしれないけれど。

 気持ちが沈んでいて、蓮くんとも話す気持ちになれなかった。

「ごめんね……お店に戻って。私、一人で帰れるから」

「芽依ちゃんがいないと、意味ないよ」

 優しく微笑む。でも、どうしてもその顔に笑い返すことができない。

 どんな時も私に笑顔を向けてくれる蓮くんが、私の罪悪感を増幅させてしまうんだ。

 私には、そんな風に笑いかけてもらう資格なんてないから……

 どうすることもできずに俯いていると、蓮くんは腕を引っ張って歩き出した。

 そのまま、私たちは何も話すことなく、駅までの道を歩いた。

 蓮くんは、いつまでも私の腕を離さない。その腕の強さから、もう私を逃がさないという意思を感じた。

「私のせいで、空気悪くして……ごめんなさい」

 呟くと、ふふ、と蓮くんが笑う声がした。

「空気が悪くなったのは、自分のせい。幼馴染が事故に遭ったのは、自分のせい。芽依ちゃんはいつも、なんでもかんでも自分のせいにする」

 半歩前を進む蓮くんは、私の顔は見えていない。

 だけれど、首を振らずにはいられなかった。

「だって……そうだよ。私が」

「責めないで。長谷くんだって、たぶん悪気があったわけじゃないよ。さっきは何を言いかけていたのわからなかったけど……長谷くんは、人に見透かされたくない部分を無闇に口に出すような人じゃないと思う。ただの、勘だけど」

「……でも」

 それ以上、何も言えなくなってしまった。

 蓮くんが何を言っても、私の罪がなくなるわけじゃないんだ。

 だって私はあの日、修ちゃんを助けられたはずだったんだから。私の言葉ひとつで、修ちゃんは今も生きることができていたんだから。

 私の罪は、なくならない。今日だって、ずっと罪悪感があった。

 私はこんなふうに楽しんでいていいのだろうか。

 充実した高校生活なんて、送っていていいのだろうか。

 修ちゃんはできなかったのに。修ちゃんは私のせいで、亡くなってしまったのに。

 修ちゃんは……。

 何をするのにも、そういう気持ちがつきまとう。

 どんなに今が楽しくても、ふとした瞬間、いつもの葛藤に押しつぶされそうになる。

 苦しい。呼吸が不安定になってくる。

 やっぱり、私……。

 足が止まった。

 ぐっと踏ん張っていたから、腕を掴んで私を引いていた蓮くんも、自然と足が止まった。

 気がつくと、私は蓮くんの腕を振り解いていた。

「……蓮くんには、わかんないよ!」

 そう、叫んでしまった。

 はっとして顔を上げる。暗闇に浮かぶ、蓮くんの表情。

 ひどく、悲しげな顔をしていた。

 蓮くんの、そんな表情を見るのははじめてで。

 いつも微笑んでいる蓮くんからは想像できない表情で。

 驚いて、震える声で、謝った。

「ご、ごめん……ごめん、なさい。私……一人で、帰るね」

 言い残すと、私は蓮くんを置いて走り出した。



 ——今度は、蓮くんは追ってはこなかった。





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・本当はみんなと仲よくしたいのに、わざと嫌われるように振舞ってる△
・本当は聞いてほしいのに、自分の本当の気持ちを話さない◯
・本当は笑いたいのに、笑顔の作り方がわからない◯
・本当はつらくてたまらないのに、人に頼ることができない
・幼馴染が亡くなってしまったことを、ずっと引きずってる
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