二人は渦潮のクルーズを終え、二人が今日泊まるための旅館に来ていた。外観はとても品のある旅館という感じでここはひなこが選んでいたので、さすがにセンスが良いなと和真は思った。

しかしロビーの受付に行くと、そこで事件は起こった。「永山様でご予約をお取りいただいているお部屋は一部屋ですね」と受付の人が丁寧に言うので、和真と佳音は「えぇ?」と声を上げた。受付の人は続けて、「初め、二部屋でご予約いただいておりましたが、人数変更とのことを承りまして、一部屋キャンセルのお電話をいただきました」とやはり丁寧に伝えられた。

佳音は急いでひなこに電話すると、「あー間違えた。もう一部屋予約してー、すまん」と軽く言って、すぐに電話を切られてしまった。きっと今は小日向さんとイチャイチャでもしてるんだろうと佳音は思った。

和真はそれを聞いて、「もう一部屋取りたいんですけど」と言うと、なんと今日はもう満室だった。しかも、この近くにはホテルも旅館もネカフェもない、自然豊かなところだったので二人は八方塞がりとなった。

しょうがなく佳音はその部屋の鍵を受け取り、二人は部屋に入った。部屋に入ると、やはり質の良いものが取り揃えられていた。しかしどこかの恋愛漫画のようないかにもという展開で、ベットは一つしか無かった。和真は普通、旅館は布団だろとツッコミたかったが、そんなことを言ってもどうしようもなかった。

和真は荷物を下ろすなり、「まぁ座敷があるのが救いよな」と自分はそこで寝るという意思を示した。佳音はそれは申し訳ないなと思ったが、和真がそう言うので素直に従った。

二人は露天風呂に行き、それぞれひとっ風呂浴びた。佳音は温泉からあがると、部屋に戻った。

一時間ほど経ち、佳音はなかなか返ってこない和真を心配した。部屋をうろうろし、男湯を覗きに行こうかと考えたが、それはさすがに変態だと思った。さらにいくらか待ったがやはり帰ってくる気配はしない。

佳音はさすがにおかしいと思い、男湯に向かった。すると男湯の近くで椅子の上に横になっている和真を見つけた。佳音は和真に近づくと、顔の前で「大丈夫ですか?」と言った。

和真は「微妙」と死んだ顔で言った。佳音はまた午後と同じように和真の両頬をつねるが和真は「いへへへ」と気の抜けた声を上げるだけだった。佳音は「もうー何してたんですかー。まだご飯も食べてないのに」と呆れた。

和真はどうにか佳音に肩を借りて、部屋まで辿り着いた。座敷に上がると、和真はすぐに寝転んだ。佳音は「もー、だらしないですよー」と佳音は言って、和真の隣に座った。

和真の顔はまるで酔っ払ったみたいに真っ赤になっていた。佳音はタオルを濡らし、おでこに乗せようと思った。その時に和真のおでこにそっと自分のおでこを乗せてみた。おでことおでこがそっと触れ合う瞬間、佳音は和真に顔が凄く近づいた。

熱いなと佳音は思い、タオルを乗せた。そしてそのまま和真をしばらく眺めていた。

長いまつげだなと思っていると、ふくよかな唇が目に入った。それはぷるぷるしており、佳音はとても引き込まれていた。青葉先生の唇はガサガサだったので、和真はとても綺麗だと思った。

佳音は魔が差したように和真にキスをした。あまりにもそれは柔らかく、なんとなくもう一度唇を近づけた。今度は和真の唇の感触を確かめながらそっと和真の唇を咥えたりした。これ以上すると、和真が起きてしまい気まずくなりそうなので、佳音はここらでやめておこうと思いやめた。

そして和真の隣に寝転がり、そっと手を繋いで佳音も隣に寝た。

部屋の電気は佳音が消していたので、もう真っ暗になっていた。

和真は起きると、真っ暗だったので驚いた。おでこに冷たい感触があり、自分は寝てしまっていたのかと思った。温泉につかっている時、和真は頭の中でぐるぐると佳音のことが回っていた。今まで、ひなこのことでもそんなことにあまりなったことはなかったので、この気持ちは何だろうとずっと考えていた。

きっと今日一日佳音といて、感覚がおかしくなってしまったのかなと思った。確かに自分は佳音に確かな愛着はあるがそれは愛情ではないと結論づけていたはずだった。しかし、脳内の信号はそれを受け入れず、佳音には違う感情があることを和真に伝えていた。

そんなことを考えている内に段々気分が悪くなり、最後にはのぼせてしまい、佳音に介抱される羽目となったのだった。

和真は起き上がろうとすると、誰かに手を繋がれていることに気づいた。暗闇の中でよく目を凝らし見てみると、それは当たり前だが、佳音だった。

佳音はすやすやと浴衣の胸元がはだけたままで寝ていた。和真は全くこいつは俺が男と言うことを忘れているのかと思った。しかし、それが悪かったのかもしれない。そして暗闇だったのも良くなかったのかもしれないと思った。

なんだかその空間は自分のプライベートスペースのような心地がした。

和真は佳音に上から顔を近づけると、そっとキスをした。和真はキスが初めてだったので少しドキドキした。そして開いた浴衣を直そうとしたがうまくできずもっとはだけてしまい、俺はオオカミかよと自分に突っ込んだ。白いブラが浴衣の間から覗いた。

佳音は寝ぼけながら、「和真」と呟いた。それは和真も自覚していない何かのスイッチを入れてしまった。

和真はさっきよりも佳音の体に身を寄せ、首筋にそっと口づけをし、さらにキスマークを付けた。同様に、胸元に近づき、そこにも付けた。自分は一体どうしてしまったんだと思ったが、なんとなくあのバーベキューの時のことを思いだし、青葉先生にまたこいつが取られて、こんな風にされるのは嫌だという謎の独占感に苛まれて、こんなことをしてしまった。

和真はやや後悔をし、もう一度、佳音の浴衣をどうにか直した。そして、佳音をお姫様抱っこすると、ベットの上に乗せたのだった。和真はしばらく佳音の顔を見て、満足した頃に自分は座敷で寝たのだった。

朝になると二人は起き、何事もなかったかのようにお互い接した。佳音は顔を洗おうと鏡の前に立つと、首になにやら赤い発疹があるので、悲鳴を上げた。和真は驚いて、佳音の元に行くと、まさに昨日自分が佳音にした愚行が目に入った。

佳音は「うわぁ、変な虫に刺されてます。こんな見えるところに。最悪ですよー」と文句を言っていた。和真はその虫は大分大きいけどなと心の中でツッコミを入れた。

佳音はファンデーションで消えるかなと心配していたが、和真は何となくそれが思ったより、自分の女感があって、満更でもなかったのだった。