宇賀山は仕事が終わると、残業している小日向を無理矢理連れ出し、いつもの居酒屋に来た。

仕事を翌日に持ち越したくない小日向は機嫌が悪かったが、宇賀山が「こころちゃんと何かあっただろ」と言うと、途端にそっぽを向いて、益々機嫌が悪くなった。

そして宇賀山やはり黒だったかと思った。

宇賀山は「こころちゃんやっぱり仕掛けて来たなぁ」と言い、さらに「お前はそんな抜け殻みたいになってなにをされたんだよ」ともはや怒りも通り越して呆けていた小日向に聞いた。

小日向は一瞬言うのを躊躇ったが、お酒が入っていたことと、あまりにも宇賀山がうるさかったので正直に、こころにキスをされたことを言った。

宇賀山はそれを聞くなり、ニヤニヤして「あいつやるなぁ」と言って、手を叩いた。

小日向は「そんないいもんじゃない」と苦言を呈していたが、宇賀山は「まぁ美女の唇を一回くらい俺もいただきたいものだよ」と呆れたことを言った。

そして、「それだけじゃないだろ」と宇賀山は鋭いことを言った。

「多分俺の推測だと、その様子をひなこちゃんに見られたんだろ。だって、あの日お前ひなこちゃんと会社の前で待ち合わせするって言ってたもんな」と完璧な推理をした。

小日向は何も言えず、静かに頷いた。

宇賀山は「お前やらかしてんなぁ」と高らかに笑った。

小日向は人の気も知らないくせにと思ったが、怒る気力もなかった。

それから、来週会うことを伝えた。すると宇賀山は「三人かぁ」と言った。そして、「俺が行って盛り上げてもいいが、俺は彼女一筋だからなぁ」と言った。

小日向は正直今回ばかりは猫の手ならぬ、宇賀山の手も借りたかったが、それは難しいかと思った。

宇賀山はしばらく考えるふりをして、「そうだ」と人差し指を立てた。

そして、「あいつ誘えよ」と、小日向が一番会社で苦手としている後輩の杉村玲央(すぎむられお)の名前を出した。

小日向は、あからさまに嫌な顔をしたが、宇賀山は「あいつはいいぞぉ。それなりに気も使えるし、盛り上げてくれるし。なんと言っても使い勝手が良い。俺が可愛がってる後輩だからな」と得意げに言った。

小日向は、その絶妙に良い奴を演じている感が否めなくなんとなくそいつと距離を置いていた。

ただそいつは確かに、課内でも宇賀山と小日向に続き、良い成績を出していた。

小日向はまぁ美織にも早くエリート社員連れて来いと言われいたのでいいかと思い、渋々来週は自分とひなこと美織と杉村ということにしたのだった。