二人は二軒目に着くと、カウンターに案内された。

ひなこは隣じゃんとドキドキが止まらなかった。まるで初デートのような心地で、もはやひなこの脳内は花畑だった。

そして、さっき実行できなかった、イケメンの写真を撮ろうとカメラを向けた。すると小日向さんは「なに撮ってるんだよ」と渋い顔をしながら映ってくれた。そして時々、手で目を隠したりし、最終的には「なに食べる?」とメニュー表で防がれた。

焼き鳥を何本かと、ひなこは車なのでカルピス、小日向さんはハイボールを頼んだ。さっきもハイボールをハイペースで飲んでいたので、もしかして何か運動をしているか、よほど好きかなんだなとひなこは思った。

小日向さんはほろ酔いで、トイレからすぐ戻ってくるひなこをおじさん呼びしていた。

「なんでおじさんなんですか!!」「まだ20代ですよ!!」とひなこは言うが、やはり笑いながら小日向さんはひなこをおじさん呼びしていた。

ふとスマホが光ったので見ると、矢田さんからだった。楽しんでいるかという内容だったが、それを小日向さんに伝えると、「ふーん」とだけ言って、興味がなさそうである。ひなこが「返信しないんですか」とせっつくと、「めんどくさいなぁ」と言いながら、雑な返信を送っていた。ひなこは丁寧な人かと思っていたので、それは見せかけで、案外おおざっぱな人なんだなと思ったのだった。

しばらくすると、小日向さんはメガハイボールを頼みだしたので、おいおいとひなこは目を丸くしたが、本人は至って気にしていない様子である。

小日向さんはそれをゴクゴクと飲むと、さらに酔っ払い、たまに「ひなこ」と呼んでくれたので、ひなこは気が気じゃなかった。

「ひなこ」と小日向さんが呼ぶので、「なんですか」とひなこが言うと、なんでもなさそうなのでなんやねんとひなこはツッコミたい気持ちだったが、逆にカメラを出して、反撃した。

すると、小日向さんはだいぶ酔っ払っているので、カメラの前でピースをしてくれた。これはシャッターチャンスとひなこは何回も写真を撮り、一番良い写りの写真をインスタにあげた。

小日向さんは、それを見て、「俺ばっかり」と言うと、今度は小日向さんがひなこを撮った。

二の腕がデカデカと写り、とても人に見せられない写真で「消してください」と怒ったが、小日向さんはニコニコしながらその写真を見てるので、どうにもできなかった。

ただ、自分の写真が小日向さんの写真フォルダーにあるのは悪い気はしなかった。

そしてしばらく喋り、盛り上がったところで、冗談でひなこが「私のこと好きですか?」と言うと、「好きじゃない」とすぐに言われ、悲しくなった。

自分で聞くのが悪いのだが、ひなこはショックとばかりに肩を落とした。

やがて、ラストオーダーになり二人は店を出た。やはり、小日向さんが会計を済ましてくれ、「ご馳走様です」とひなこは言った。

帰り、地下鉄で途中まで一緒に帰るという話になり、ひなこが逆の方向に歩こうとすると、小日向さんは頭をガシッと掴み、「こっちだよ」と言った。

ひなこはまじかとドキドキが止まらなかったが、こっちもやってやると、「手繋ぎましょ」と言うと、案の定「嫌だ」と言われた。しかし、めげずに腕を組むとそれは良かったらしく、腕を組ませてくれた。

小日向さんは割と良い体で、今日は半袖を着ていたので生肌だなと悪いことを考えていた。

そして、胸のポケットにスマホとメガネを入れていたので、「かけて!」と言うと、素直にかけてくれた。

その姿はいかにもイケオジで、とても三十四歳には見えなかった。写真撮りたいと心の底からひなこは思ったが、小日向さんとの腕組みを、外したくないので今回は諦めた。

やがて地下鉄に着き、そこには誰もいなかった。

小日向さんは酔っているので、「気をつけて帰れよ!」と大声で言うので、「ちょっと」とひなこは言うが、本当はとびきり嬉しかった。

こうしてひなこの幸せな初デートは終わりを迎えたのだった。