こころは朝になるとむくりと起き上がった。こころは抱きついていた玲央から体を離すと、「はぁーよく眠れた」と大きな伸びをした。

玲央は「それは良かったな」とバキバキの血走った目で言うので、こころは「やばいよ、どうした」と言った。

玲央はお前のせいで眠れなかったんだよと言いたかったが、そこを追求されるのも困るので、あえて言わなかった。こころは「さぁ、会社行こっと」と言うと、さっさと家を出て行ってしまった。

玲央はこれは今日はきついわと思って、もう会社を休もうとベットにもう一度寝っ転がると、こころが戻ってきて、「ほら、早く行きますよ」と玲央のバックを持って引っ張られた。

玲央はまあ金曜だしいいかと仕方なく会社の準備をした。

玲央は会社に着くと、ずっと眠たくウトウトとしていた。隣の席の人からもはや何回起こされたか分からないと玲央は思った。そしてついには宇賀山さんも来て、「お前今日はこころちゃんと朝帰りか」と言われた。宇賀山さんはこころを指で差し、「ほら、服が昨日から替わっていない」と言った。

玲央が「鋭いっすね」と言うと、宇賀山は「いいなぁ、あの豊満な胸を触れたなんて羨ましい」とセクハラじみたことを言った。玲央は「触ってはないけど、目の前では見ました」と正直に言うので、宇賀山は「まじか」と言い、さらに「詳しく」と言い、盛り上がった。

その様子をこころは見ており、ほんと男はバカなんだからと思ったのだった。

そしてしばらくはこころは玲央の家に住み着いたのだった。あまりにも当たり前のようにこころが家にいるので、玲央もいつしかそれが当たり前になっていた。こころが先に帰り、「おかえりー」と言うと、玲央も「ただいま」と言った。そして玲央はなんだこれとそこで我に返り、今日こそこいつを追い出さねばと心に誓うのだった。

ふと家がカレーの良い匂いで満たされていた。玲央はカレーが大好きなので、さっきまでの決心が鈍りそうになった。こころはカレーをよそうと席に座っている玲央の前に置いた。玲央はいただきますも言わずにそれにがっついた。

お腹が空いていたので、それはとても美味しく感じた。そもそもこころはとても料理が得意で、カレーももちろんお手の物だったのだ。

玲央は三杯もおかわりをし、幸せで満たされていた。こころはそんな玲央を可愛いなと思い、「また作るね」と言い、玲央はそれに「おう、楽しみにしてる」と答えてしまい、失敗したと思った。

玲央は小さい頃から女の人に振り回されやすい体質で、お姉ちゃんが三人いるのでその人たちからも散々好き勝手にされた。元カノもまたその前の元カノもこころのような自分を振り回すタイプで、またかよと玲央は思うのだった。

そして玲央はようやくこころから抱きつかれながらも寝ることができるようになったのだった。もはや慣れとは怖いものだなと玲央は思った。

こころが隣で、「そろそろ私たち付き合わない?」と冗談を言うので、玲央は「カレーがあるならな」と心の中で呟いた。すると、「え?」とこころが起き上がり、「やったー」と玲央に抱きついた。玲央は自分が声に出していたことに気づき、「いやなし、なしだから」と言うが、こころはテンションが上がっているので、もう何も聞いていなかった。

玲央は呆れたが、まあカレーがあるならいいかと思うのだった。
fin