「あの〜すみません、
       そのブルーマウンテンコーヒーおいしいですよね?」



あまりにも下手で笑ってしまう、ナンパである。
でも、彼女は振り向いた。



『ええ、そうね、すみません。
           どうぞ』

彼女は、僕に気づかないで、少し後ろに下がって身を引いた。

それでも僕は続けた。

「あ、やっぱりやっぱりななみさんだ。

     僕のこと覚えてる?

      去年コーヒー注文しましたよ。

デリバリーで注文する位おいしいんです!

            ねぇ」


ななみさんは少し驚いた。表情している。
この人誰だろう?みたいな表情して様子を伺っている。僕に気づかないだけだろうか。



いや




わかった。




僕が太ってしまったからである。


ロングコビッドになって何キロ太っただろうか、
体重計も測れないほど想像もつかない位太ってしまった。
それは夏の日だった。あれから半年、
何もかも変わってしまった。あの日から会えてないから、やはり自分の想いだけが先行しまった。



それだけ彼女が目の前に現れたことが現実なのか、
それとも僕の夢の延長線なのか
はっきりとしない。


『あなた名前は何と言うの?』

ななみさんが僕に尋ねた。彼女の声色からすると、
間違いない。彼女だ。でも何かが違う夏にお会いした時はワンサイズ小さかった。何か今日の彼女は体格が大きいし、背も高く感じるし、
鼻も通っていて目つきもキリッとしている。




別人だ。と思えば別人にも思える。
しかしながら、独特の雰囲気が彼女だと結論づけたいくらい、彼女であると言える。


「ぼくはしのりです

貴女の名前は?」



『私の名前は.........言わなくても
           わかるのでしょう?』





    彼女は僕に名前を僕に告げなかった。