「あ…ごめん…」



隣を歩いていた玲音が急に立ち止まり、私を心配そうに見下ろしてきた。



「どうかした?どっか具合でも悪い?」


「あ、ううん、違うの。ただ、ちょっと考え事をしてて…。今日、私の過去を柏木さんに話したの。そしたら柏木さん、友達になりたいって言ってくれて。…でも、そんなの無理。もう一度誰かを信じるなんて、できない」


「…どうして?」


「…怖いの。また誰かに裏切られることが、柏木さんに裏切られたらって考えたら…怖いの。本当は無理だって言いたかったのに、どうしてもその言葉が出てこなかった。今日だって、みんなと掃除をして、笑ってくれて、話せて…そんな些細なことだったけど、すごく楽しかった。こんな気持ち今までなかったのに、私が変わっていくみたいで、怖い」



言葉にしてから、ああ自分は心底怖がっているんだとやっと気づく。


柏木さんが、みんなが、あまりにも温かくて優しい人たちで、とても居心地がいいから。


もっと一緒にいたい、みんなと仲良くなりたい。そんな気持ちが出てきてしまう。



蓋をしてもしても次々と溢れて止まらないこの感情を、どうしたらいいのかわからない。



「怖くてもいいんじゃない?」


「…え?」


「裏切られるかもしれないなんて最初から考えてたら、キリがなくない?俺だって友達に裏切られたり、明日香に裏切られるかもしれない。絶対にないってわかってるよ。でも、絶対なんてないだろ?長い時間をかけて築き上げてきた関係だって、些細なことがきっかけで一瞬で崩れることだってある。それでも、怖がっているだけじゃ何も得られない。今日だって明日香がもしも帰っていたら、楽しいなんて思えなかった。変わることを怖がっているけど、本当は明日香はそんな自分を変えたいって思ってるんじゃない?」


「そんなことな…」