大熊さんと戯れる双子は、じつに活動的すぎる。乳母は雇わず、ベッキーに手伝ってもらいながら必死に育てているけれど、それもきつくなってきている。

 上の男の子にはアントニーの父、つまりわたしにとっては義父の名キャメロンを、下の女の子にはわたしの母の名キャロライナを、それぞれ名付けた。

 アントニーは、双子にメロメロすぎる。溺愛なんて言葉がなまやさしいほどである。
 最近、彼は屋敷にというよりかは子ども部屋に引きこもってしまっている。

 やきもち?

 ええ、焼きまくっているわ。

 とはいえ、アントニーは子どもたちをただ溺愛するだけではない。わたしが出産してからずっと、ちゃんとやることはやってくれる。

 おむつの交換やミルクを飲ませてくれたり、夜泣きをすれば抱いてあやしてくれたりした。もちろん、それはいまでもずっと続いている。



 いつものように、みんなで「アーチャーの休憩所」のスイーツとミルクを楽しんだ。

 それから、カーリーがわたしの様子を見てくれた。

 いま、わたしのお腹には赤ちゃんがいる。

 今年の冬には生まれる予定である。

 その頃には、ベッキーも出産する予定になっている。

 彼女は、執事のブラッドの弟と結婚したばかりである。ブラッドの弟は隣の男爵家の屋敷で執事を務めている好青年で、彼女もしあわせの絶頂である。

「順調よ」

 カーリーの言葉に、アントニーはうれしそうにうなずいた。

「カーリー。おれたちも一刻もはやくかわいくって気立てのいい子どもを二十人くらい……」
「うるさいわね。二十人?そんなに出来るわけないでしょう」

 カーリーは、大熊さんに対してだけ厳しすぎる。

「一度に十人産めば、二度ですむ。ほら、年齢的にも……」
「いったい、わたしを何だと思っているの?信じられないわ」

 ピシャリと言い返され、大熊さんはしょんぼりしている。

 たしかに、一度に十人はムリがありすぎる。

 双子が「帰らないで」とぐずり、大熊さんが「泊まっていきたい」とぐずる中、カーリーは大熊さんのお尻を叩きながら連れて帰ってしまった。


 カーリーたちが帰宅した後、大熊さんを大熊のぬいぐるみのように扱っていた双子をあやしている。二人とも、まだぐずっている。

 これは、カーリーと大熊さんが帰った後の恒例である。

 腹部がだいぶんと大きくなってきている。出産を控え、乳母を雇うことになった。すでに候補は数人いる。

 双子だけでなく、生まれてくる子も面倒をみてもらうことになる。

「ユイ、生きているって素晴らしいな」

 アントニーは、キャロライナとキャメロンを胸に抱いて真っ赤なほっぺに自分のほっぺをすりすりしつつ、しみじみつぶやいた。

「ええ、そうですね。生きている。これほど素晴らしいことはありません」
「きみと幼馴染でよかった。きみと結婚できてよかった。きみと夫婦でいつづけることが出来てよかった」
「ええ、わたしも同じ気持ちです。ですがどれだけ褒めていただいても、残っている「アーチャーの休憩所」のパウンドケーキを譲る気は、いっさいありませんので」
「チェッ、バレたか。母は強し。妻は最強、だな」
「いいえ。妻は最恐、ですわ。カーリーというお手本がいますから」
「おお、怖い」

 アントニーは、身震いした。

 それから、わたしの唇に自分のそれを重ねた。

 彼とわたしにはさまれ、子どもたちが「キャッキャッ」とよろこんでいる。

 お腹にいる子どもも含め、わたしたちはもっともっとしあわせになる。

 人間(ひと)ってほんとうに欲が深いんだな、とつくづく実感してしまう。

 だけど、さらなるしあわせを求めても罰は当たらないわよね?


                           (了)