「旦那様っ」
屋敷に戻ると、馬車から降りるまでに執事のブラッドが慌ただしく駆け寄ってきた。
ちょうどアントニーの手を取り、馬車から降りたタイミングであった。
屋敷の中から、ブラッドを追いかけるようにしてだれかが飛び出して来たのである。
「どういつもりなんだっ」
すごい剣幕である。
一瞬、伯父様かと思った。だけど違った。
「おじ」は「おじ」でも、アントニーの伯父ではなくわたしの叔父だった。
亡くなった父の弟のトーマス・アルフォードである。
さらに叔母のカーラと従姉のダリアが、屋敷内から出て来た。
よりにもよって、どうしていまなの?
この慌ただしいときに、どうしてわたしの身内まで押しかけて来て揉め事を起こそうとするの?
違うわね。すでにブラッドに絡んで揉め事を起こしているわよね。
どうかんがえても、彼らの訪問の内容が挨拶とか吉報を携えているような感じにはうかがえない。
イヤな予感しかしない。
「旦那様、申し訳ございません」
「いいんだ、ブラッド。用件はわかっているから」
「アントニー様?」
なぜかアントニーは落ち着いている。
彼は、わたしに微笑んでから叔父に向き直った。
「叔父上、お久しぶりです」
「ああああ?久しぶりだと?ああ、たしかに久しぶりすぎだな。公爵だからって、妻の家族を蔑ろにしていいというのか?」
「叔父様っ」
非礼すぎるわ。叔父に抗議しようと一歩踏み出そうとしたところ、アントニーに手で制されてしまった。
「叔父上、これは失礼いたしました。ですが、妻ユイの家族はわたしだけです。義父上も義母上も、ずいぶんと前に亡くなっています。だから、義父母が亡くなっておれたちが結婚して以降は、彼女の家族はわたしだけというわけです」
「なんだと、この青二才っ」
叔父は、アントニーにつかみかからんばかりの勢いである。叔母は、その様子をニヤニヤしながら見ている。従姉にいたっては、あきらかにアントニーを異性として、というよりかはイヤらしい目で見ている。
「叔父上。失礼ながら、家族について論議しに来たわけではないですよね?今日は、ユイもおれもいろいろあって疲れているんです」
「わかっているんじゃないか。ああ、そうだ。わがアルフォード伯爵家のことだ。すぐにでも立ち退くようにとの通達が来た。どういうことだ?こんなこと、パウエル公爵家が手を回さねば出来ないことだ」
ええっ?
叔父の怒りの理由に、思わずアントニーを見てしまった。
「叔父上、あなたにアルフォード伯爵家を継ぐ資格はない。資格があるのは、この世にただ一人。ユイだけです。残念ながら、あなたはそのユイの後見人としてすら認められなかった。それを、あなたがあらゆる関係者に賄賂を渡し、ユイが不治の病にかかっているから伯爵家を継ぐことは出来ないと虚偽申請をしてしまった。それがバレただけですよ。嘘の診断書、後見人の書類……。本来なら、投獄されてもおかしくない状況を、ユイの叔父だから穏便にすませるつもりだったんです。あとはユイしだいです。彼女が訴えるのでしたら、すぐにでも断罪されることになる」
「な、な、なんだとっ」
叔父だけでなく叔母も真っ赤になって怒り狂っている。
「さあ、はやくアルフォード伯爵家に戻って荷物をまとめて下さい。すぐにでも王家が定めた管理人が訪れるでしょうから。そして、二度とユイの前に現れないで下さい。もう一度言います。彼女の家族はわたしだけです。ブラッド、マーク。叔父上たちにお引き取り願ってくれ。暴れるようなら、警察を呼ぶんだ。わが愛する妻よ、疲れただろう?行こう」
唖然としているのは叔父と叔母と従姉だけではない。わたしもである。
アントニーはそのわたしの手を取り、歩きはじめた。
叔父たちの横をすり抜け、屋敷内へと入って行く。
そして、彼は大扉を閉じた。
叔父と叔母と従姉の怒鳴り声が、大扉を通じてもきこえていた。
屋敷に戻ると、馬車から降りるまでに執事のブラッドが慌ただしく駆け寄ってきた。
ちょうどアントニーの手を取り、馬車から降りたタイミングであった。
屋敷の中から、ブラッドを追いかけるようにしてだれかが飛び出して来たのである。
「どういつもりなんだっ」
すごい剣幕である。
一瞬、伯父様かと思った。だけど違った。
「おじ」は「おじ」でも、アントニーの伯父ではなくわたしの叔父だった。
亡くなった父の弟のトーマス・アルフォードである。
さらに叔母のカーラと従姉のダリアが、屋敷内から出て来た。
よりにもよって、どうしていまなの?
この慌ただしいときに、どうしてわたしの身内まで押しかけて来て揉め事を起こそうとするの?
違うわね。すでにブラッドに絡んで揉め事を起こしているわよね。
どうかんがえても、彼らの訪問の内容が挨拶とか吉報を携えているような感じにはうかがえない。
イヤな予感しかしない。
「旦那様、申し訳ございません」
「いいんだ、ブラッド。用件はわかっているから」
「アントニー様?」
なぜかアントニーは落ち着いている。
彼は、わたしに微笑んでから叔父に向き直った。
「叔父上、お久しぶりです」
「ああああ?久しぶりだと?ああ、たしかに久しぶりすぎだな。公爵だからって、妻の家族を蔑ろにしていいというのか?」
「叔父様っ」
非礼すぎるわ。叔父に抗議しようと一歩踏み出そうとしたところ、アントニーに手で制されてしまった。
「叔父上、これは失礼いたしました。ですが、妻ユイの家族はわたしだけです。義父上も義母上も、ずいぶんと前に亡くなっています。だから、義父母が亡くなっておれたちが結婚して以降は、彼女の家族はわたしだけというわけです」
「なんだと、この青二才っ」
叔父は、アントニーにつかみかからんばかりの勢いである。叔母は、その様子をニヤニヤしながら見ている。従姉にいたっては、あきらかにアントニーを異性として、というよりかはイヤらしい目で見ている。
「叔父上。失礼ながら、家族について論議しに来たわけではないですよね?今日は、ユイもおれもいろいろあって疲れているんです」
「わかっているんじゃないか。ああ、そうだ。わがアルフォード伯爵家のことだ。すぐにでも立ち退くようにとの通達が来た。どういうことだ?こんなこと、パウエル公爵家が手を回さねば出来ないことだ」
ええっ?
叔父の怒りの理由に、思わずアントニーを見てしまった。
「叔父上、あなたにアルフォード伯爵家を継ぐ資格はない。資格があるのは、この世にただ一人。ユイだけです。残念ながら、あなたはそのユイの後見人としてすら認められなかった。それを、あなたがあらゆる関係者に賄賂を渡し、ユイが不治の病にかかっているから伯爵家を継ぐことは出来ないと虚偽申請をしてしまった。それがバレただけですよ。嘘の診断書、後見人の書類……。本来なら、投獄されてもおかしくない状況を、ユイの叔父だから穏便にすませるつもりだったんです。あとはユイしだいです。彼女が訴えるのでしたら、すぐにでも断罪されることになる」
「な、な、なんだとっ」
叔父だけでなく叔母も真っ赤になって怒り狂っている。
「さあ、はやくアルフォード伯爵家に戻って荷物をまとめて下さい。すぐにでも王家が定めた管理人が訪れるでしょうから。そして、二度とユイの前に現れないで下さい。もう一度言います。彼女の家族はわたしだけです。ブラッド、マーク。叔父上たちにお引き取り願ってくれ。暴れるようなら、警察を呼ぶんだ。わが愛する妻よ、疲れただろう?行こう」
唖然としているのは叔父と叔母と従姉だけではない。わたしもである。
アントニーはそのわたしの手を取り、歩きはじめた。
叔父たちの横をすり抜け、屋敷内へと入って行く。
そして、彼は大扉を閉じた。
叔父と叔母と従姉の怒鳴り声が、大扉を通じてもきこえていた。