私が絵本の正式な題名を申しますと、殿下が思い当たったのか頷かれました。


「私あの絵本の初版本を持っています
 大好きで何度も読み返していますが、決して
進歩的信者ではありません」

進歩的信者というのは階級制度を潰せと、主張
されている方々のことです。
貴族階級の人間は彼らを皮肉って、そう名付け
ました。


「俺も読んだが、大した思想があるわけじゃないと、思ったな
 要するに道徳だろ?
 己の身の程をわきまえろ、という……
 発禁にするような内容でもなかったが、教会は思想にうるさいから」

「幼い頃に私がノーマン様にお勧めして」


『叶えたい願いがあるならお月様にお願いして』と、ノーマン様に見せた絵本でした。
私には気付かれないように、彼が表紙をそっと
撫でていたことを殿下にお伝えしました。


「じゃあ、そのお姫様?
 ノーマンにとって、あのクリスティンは女神
だったんだ?」

可笑しそうに殿下の肩が揺れています。


「シャーロット、君は知らないと思うけど」

殿下はそこで言葉をお切りになり、私にフルーツのお皿を回されました。


「クリスティンとノーマンは、男女の仲になっていないよ
 信じられないだろうけどね
 公爵家の別荘には監視を付けていたんだ
 妖女の方はその気だったが、ノーマンは上手くごまかし続けて夏を乗り切った」