まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました

「すみません、私すっかり」

 間近にある顔と腰に触れている腕に体が熱くなり、どこを見たらいいのか分からなくなる。目を泳がせていたらだんだんと腕の力が緩んでいき、自分の力で立てるようになった。

「それで? なにを手伝えばいい」
「え」
「なにか探してたんだろう。こんなになるまで」

 突然、そう言いながら彼の長い指が私の顔に触れた。ゆっくりと親指で頬をなぞられ、心臓の鼓動が一気に加速する。

 これが明るい場所でなくてよかった。ぼんやりと照らされているオレンジ色の街灯のおかげで茹蛸のように赤くなった顔はバレていないはずだ。

 私は緊張から湧き出る汗に気づかれないよう後ずさるように離れた。


 そして先程見た秋吉様の様子を話す。

 これはただの直感で本当になくし物があるのかさえ分からない。でも近づく私に気づかないくらい必死で、諦めきれないように周りをきょろきょろしながら去っていく表情を見たら何かあると思わざるを得なかった。

 それにあの時感じた違和感はきっと間違いない。


「私の思い過ごしかもしれないんですけど……」
「分かったから、言ってみろ」

 何の根拠もなかった。それなのに私の行動を無条件に信じてくれた予想外の返答に驚かされる。こんなの勘違いしてしまう。無性に嬉しくてたまらなくなった。