まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました

 五時を過ぎて定時を迎えた私は私服に着替えて裏口から出て行く。すると仕切りの隙間から茂みをうろうろとしている人影を見た。

「どうかされましたか?」

 慌てて表に回った私はしゃがみ込んでいる着物姿の女性にゆっくり近づいていった。

「ひゃ」
「すみません、驚かせるつもりは」

 梅の花があしらわれた薄紫色の着物は紛れもなく私が用意したものだ。しかし近づく気配にまるで気づかなかったようで、驚かせて尻もちをつかせてしまい慌てて手を差し伸べた。

「秋吉様でいらっしゃいますよね」

 口数は少ないけれど終始笑顔で優しそうな旦那さんと一緒に来たおっとりとして上品そうな人だった。

「あなた、昼間の仲居さん?」

 目を丸くしてこちらを見たかと思ったらすぐにハッとして私の手をとった。

「はい。あの……お怪我は」
「ええ、大丈夫よ。ごめんなさいね私ったら」

 着物についた砂埃を軽くはらって恥ずかしそうに笑う。そんな中、少し周りを気にしている彼女は明らかに何かを探しているようで、なんだか私まで気になってきてしまった。

「何かお探しで……」
「あ、いいえ。なんでもないのよ」

 しかし私の言葉を聞いた瞬間、無理やり笑顔を作って立ち去ろうとする。