まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました

「どう、気に入った?」

 白亜のチャペルを前に巧さんが顔を覗き込んできて、いまだ慣れない彼のキラキラとした笑顔に照れて顔を俯かせる。

「もちろんです。素敵すぎて私にはもったいないくらい」
「そんなことないよ。結ちゃんは控えめだなあ」

 頭をポンポンとなでられ顔が熱くなった。

「相馬様ひとつこちらで確認いただきたいものがあるのですが」
「分かりました」

 スタッフの男性とともに奥の部屋へと消えていく彼の姿を見送ると、ひとりに残された私は気を張っていた体からすっと力が抜けていくように近くの長椅子に腰かけていた。

「先が思いやられるな」

 どこから現れたのだろう。誰もいないと思っていたら背後から低い声が聞こえてきて、驚いて飛び上がった。振り返ると高そうなスーツを着た男性が長い脚を交差させ、タブレット片手に壁へ寄りかかって立っている。

「さっきから上っ面な会話ばかりだな。気を遣ってまで結婚する意味がわからん」

 聞こえるか聞こえないかの声量でぶつぶつと言っているが、視線はタブレットにしか向いていない。でも明らかに私たちに対するセリフでだんだんと腹が立ってきた。

「あ、あのですね」

 少し当たっている。巧さんといると自分をよく見せようと必死で取り繕っているところがあった。しかしそれを初対面の相手にどうこう言われる筋合いはないし、この式場で結婚式を挙げようとしているいわばお客に向かって言うことではないだろう。

 感情のままに言葉をぶつけるのが苦手でその先に続く言葉が出てこないが、考えれば考えるほど言い返したくなっていく。

「失礼。外野が余計なお世話でしたね」

 しかし何かを察したのか先に口を開いたのは彼の方だった。

 そのとき不意に目が合い言葉を失った。

 彫刻のようにはっきりとした綺麗な顔立ちに吸い込まれそうになる。言い返す間もなくすぐに去ってしまい見たのは一瞬だったけれど、男性を見て美しいと感じたのは生まれて初めてだった。

 でも愛想なく表情ひとつ変えない彼からは少しだけ怖い印象を覚える。