何を考えているのか分からない仕事人間の一哉さんは、いつも気を張っていて素を見せてくれたことはない。だから余計に知りたいと思ってしまうのかもしれない。私だけが知る彼の姿を見たいと思い始めていた。
「彩乃さん」
「はい」
私は眠りについた彼を置いて母屋に顔を出す。夕日が差し込む縁側で拭き掃除をしている彼女に声をかけた。
「台所を借りてもいいですか。一哉さんになにか作ってあげたくて」
料理なんて生まれてこの方したこともない私がそんな風に思うのは自分でも意外だった。
「私としたことが! すぐにお持ちしますのでお部屋で……」
「そうじゃなくて。その、できれば私が作ってあげたくて」
焦って彼女の言葉を遮って口にしながら顔が熱くなる。きっと一哉さんが『いいものだな』なんて嬉しそうに言うから、私だって何かしたくなっちゃったんだ。
あつあつの土鍋を持って、ぐっすりと眠っている一哉さんの隣に座るまで随分かかってしまった。
何度も作り直してようやく出来上がったおじやが人生初めての手料理になり、紺色のミトンで鍋蓋をそっと開けるとたちのぼる湯気と共に美味しそうな匂いが漂った。
「それ、なに」
我ながら上出来ではないかと口元をニヤつかせていたら一哉さんの寝ぼけたような声が聞こえてくる。驚いて危うく鍋蓋を落としそうになりながら彼を見たら、少しこちらに顔を傾けて目を薄く開けていた。
「彩乃さん」
「はい」
私は眠りについた彼を置いて母屋に顔を出す。夕日が差し込む縁側で拭き掃除をしている彼女に声をかけた。
「台所を借りてもいいですか。一哉さんになにか作ってあげたくて」
料理なんて生まれてこの方したこともない私がそんな風に思うのは自分でも意外だった。
「私としたことが! すぐにお持ちしますのでお部屋で……」
「そうじゃなくて。その、できれば私が作ってあげたくて」
焦って彼女の言葉を遮って口にしながら顔が熱くなる。きっと一哉さんが『いいものだな』なんて嬉しそうに言うから、私だって何かしたくなっちゃったんだ。
あつあつの土鍋を持って、ぐっすりと眠っている一哉さんの隣に座るまで随分かかってしまった。
何度も作り直してようやく出来上がったおじやが人生初めての手料理になり、紺色のミトンで鍋蓋をそっと開けるとたちのぼる湯気と共に美味しそうな匂いが漂った。
「それ、なに」
我ながら上出来ではないかと口元をニヤつかせていたら一哉さんの寝ぼけたような声が聞こえてくる。驚いて危うく鍋蓋を落としそうになりながら彼を見たら、少しこちらに顔を傾けて目を薄く開けていた。


