まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました

「何かあればそばにいますから。今日くらいちゃんと寝てくださいね」

 家に戻って彼を布団に寝かせたあと、氷枕と濡れたタオルをセットして壁に寄りかかり隣で本を広げて読んでいることにした。しかしなんとなく視線を感じ、ちらりと本をずらして覗いてみたらとろんとした瞳がこちらを見ていた。

「あの、そんなに見られてると落ち着かないんですけど」

 なぜだか一哉さんにじっと見られまるで本に集中できない。

「誰かに看病してもらうのは初めてだな」

 そのとき小さくそう口にする声が聞こえた。

「どうせ風邪をひいても医者と看護師が来るだけであとは放っておかれた。だから熱があっても口にしようとも思わなくなった」

 意識が朦朧としているのか、私を見つめたままぼうっとしている彼は珍しく素直だった。

「いいものだな」

 重い瞼がゆっくり閉じていきながらどこか少し柔らかく微笑んだように見えた。発した言葉に思わずドキッとさせられ、普段さみしい素振りなんて少しも見せない彼の貴重な一面を見た気がした。

「綺麗な寝顔」

 吸い寄せられるように近づいて目にかかりそうな前髪をそっとなぞった。熱にうなされる表情すら美しく思えて見惚れている自分がいる。

「辛かったら言葉にしてください」

 聞こえていないと分かっていながら彼の寝顔を見ていたら自然と言葉がこぼれていた。

「あなたの妻を引き受けてもまだ私には返しきれない恩がある。もう少し頼ってくれてもいいんですよ」

 額からずり落ちそうになっているタオルを乗せ直し小さくため息をついた。