まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました

「働きっぱなしでろくに食事もとらないでそんなの倒れるに決まってます。もう少し自分の体を大事にしてください」

 大きくため息をつきながらムッとして、膝の上にのせていた手でぎゅっと服をつかんだ。

「そんなに心配だったか」
「からかわないでください。何かあったらお義母さんに怒られるのは私なんです」

 図星をつかれて慌てて誤魔化したけれど顔が熱くなるのは止められなかった。なんだか心配していると思われるのは無性にこそばゆくなる。

「あのう」

 そんなやり取りをしていたら後ろから誰かが入ってきた気配を感じた。振り向くとガリガリでインテリ系の眼鏡をした若い男性が立っていて、遠慮がちにこちらに近づいてきた。

「私、社長の秘書をしている光井(みつい)と申しまして、奥様でいらっしゃいますか」
「あ、はい。いつもお世話になってます。えっと妻の……結です」

 初めて『妻の』なんて言うのは少し照れ臭かった。すると彼はぎこちなく笑顔を作る私の前で勢いよく頭を下げてきた。

「申し訳ありませんでした! 朝から熱があると分かっていながら、どうしても行くとおっしゃられたのを止められずこんなことに」
「え、朝からって」

 私は自然と手が動いた。一哉さんの額に右手を伸ばした途端あまりの熱さに慌てて手を退ける。