「疲れた……」

 月島旅館で働き始め早三ヶ月が経とうとしていた。

 月島家での初めての年越しは旅館の仕事をするうちにあっという間に過ぎ去った。

 正月には一度だけ全員が母屋に集まって新年の挨拶をしたけれど、繁忙期の旅館は予約でいっぱいで大忙しのうちに三ヶ日が過ぎ去っていた。

 都内を離れて過ごす冬はあまりにも寒く、滅多に見れない雪も毎日のように降っていた。でもそんな景色も横目に見るくらい目まぐるしい日々だった。

「旅館の仕事なんてしなくていいって言っただろ」

 今日も女将からの厳しい指導に耐えて一日を終えると、帰った頃にはへろへろで毎日布団になだれ込むようにして眠っていた。

 呆れたような一哉さんの声はすでに遠くの方から聞こえてきて、あったかい布団にくるまりながら夢と現実の狭間でもうほとんどぼんやりとした記憶の中にいた。

「またそのまま眠ってしまった」

 目が覚めると化粧も落とさずに朝を迎えている自分に肩を落とす。これで何度目だろうかと数えるのもやめた。

 旅館に通うようになってから生花や茶道の稽古、旅館のいろはを学び毎日が勉強の連続でこんな失態はしょっちゅうだった。