まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました

「式場で……月島園さんでお着物を着付ける機会があったので、そこで」
「そうだったんですね」

 何の疑いもなく可愛らしい笑顔で微笑む彼女になんとなく罪悪感を感じる。

 『嘘を本当のように見せるには真実と交えながら話すのが効果的だ』と彼は言っていて、あらゆる想定をして考えられた三枚にもわたる一問一答を頭に浮かべた。

 幸い深くはつっこまれずにホッとするもののどこかでぼろを出しそうでひやひやする。

「このあたりの敷地はすべて月島家のものです。離れの裏手はほとんど誰も入ってきませんし、流れている小川の音も穏やかでとても落ち着きますよ」

 彩乃さんに連れられて観光客の人たちとすれ違いながら、月島旅館の前を通る。だんだんと風情ある商店街が見えてきて多くの人で賑わいを見せていた。

「ちなみにこの先の通りはイチョウ街道と言われていて、月島旅館のお客様なら必ず行かれる観光スポットです。秋になると一面銀杏の葉で埋めつくされ黄色い絨毯が敷かれているかのようになりますからおさえておいた方がいいと思います」

「凄い」

「そこの石段を上がれば頂上に有名な縁結びの神社がございまして、近くにあるお蕎麦屋さんは月島旅館に並ぶ老舗店なんです。ぜひおすすめして差し上げてください」