まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました

 すぐにしっかりとした和定食の御膳が用意される。

「美味しそう」

 鯵の焼けた香ばしい匂いとお味噌汁の優しい匂いが入り交じり、自然と言葉が出ていた。

「申し遅れましたが、今日から若奥様の身の回りのお世話をさせていただきます、市川彩乃(いちかわあやの)と申します」

 朝食の準備を終えたかと思うとまたもや深々と頭を下げられ慌てて背筋が伸びた。改めて近くで顔を見ると、童顔で女の子らしい柔らかい雰囲気をもつ女性だった。

「何か御用がありましたらいつでも母屋におりますのでお申し付けください」
「は、はい」

「若旦那様からは必要以上に離れに入らぬよう申し付けられておりますので、お膳は戸の外に出していただければ後ほど片付けに参ります。ではごゆっくりお召し上がりください」

 丁寧にまたお辞儀をして去っていく彼女にぺこりと頭を下げたあと、ひとりになった私はどうも旅館に泊まりに来ている気分で抜けず肩がこる。

 家でもこの調子だとどうもくつろげる気がせずに早速息が詰まりそうだった。

 食事はさすが老舗旅館を営む月島家の朝食だと感じるほど絶品だった。お味噌汁もそれぞれ家庭の味があるというけれど、煮干しの出汁が出ていてどこか懐かしい味がした。

 実家にいた小林さんが作る味によく似ている気もした。