まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました

 広いリビングの奥にはずらりと着物が並んでいて、どれもこれも高級なものばかりの圧巻の光景が広がっていた。

 思わず近づき手に取ったのは紺色の生地で、シルク一〇〇パーセントの正絹(しょうけん)で作られた高価な品物だ。

 その瞬間、初めて巧さんと会った日に同じような着物を着ていたのを思い出す。お気に入りの一枚だと言って話が弾んだのを思い出した。


 不意に巧さんとレイナが一緒にいる場面がちらついた。頭は先ほどから割れそうに痛くて、改めてこの痛みが全て現実だったのだと思い知らされる。また一気に血の気が引いていきその場に座り込んでしまう。自分が惨めでならなかった。

「ヤケ酒の原因はあの男か」

 すると目の前でしゃがんだ一哉さんが私の手に水の入ったコップを持たせた。

「昨日急にいなくなったあと、君の元婚約者が別の女性を連れているのを見かけたよ」

 しかし続いた言葉に目を丸くしてコップを持つ手から力が抜ける。

 あぶな、と反応する彼が私の手を取ってもう一度握らせようとしてくるけれど今はそれどころではない。巧さんについて彼に話したことがあっただろうかと混乱していた。

「だから言っただろう。上っ面な関係でする結婚なんて先が思いやられると」
「覚えてたんですか、私のこと」

 聞き覚えのあるセリフ。それはたしか式場で初めて一哉さんを見た日に言われた言葉だ。