「ここ……」
そして到着したお店は入り口からして見覚えのある高級料亭だった。石造りの足場と旅館のような店構えを前に立ち止まる私を見て、先を歩いていた彼が立ち止まった。
「どうかした?」
「あ、いえ」
平静を装うが胸はギュッと締め付けられ動揺を隠せない。なぜならここは相馬さんが初めてのデートで連れてきてくれた思い出の場所だったからだ。
店内に入り通されたのは不運にも以前来た時と同じ竹で仕切られた半個室型の席で、覚えのある料理が並び思わず唇をかんだ。
「口に合わなかった?」
心ここにあらずで料理にはまともに口をつけられない状態だ。
「そんなことないです」
お酒を飲んで誤魔化したけれど料理を口に運ぶたび巧さんとの思い出が蘇ってきてしまい、どうにも敵わなかった。
巧さんはあっさりと私を他人だと言って差し伸べた手を掴んではくれなかった。彼ならきっと助けてくれると信じていたのに手のひらを返したように態度を変える他の人たちと何も変わらず、心底失望した。
だからもう彼のことなんて嫌いになりたい。忘れてしまいたい。それなのに思い出すのは彼の優しいところや笑った顔ばかりで、どうして幸せだった記憶ばかり浮かんでしまうんだろう。
「なんで……」
無意識に一粒の涙が頬を伝い、その瞬間に驚いたようにこちらを見ていた一哉さんと目が合ってしまった。
「ごめんなさい」
そして到着したお店は入り口からして見覚えのある高級料亭だった。石造りの足場と旅館のような店構えを前に立ち止まる私を見て、先を歩いていた彼が立ち止まった。
「どうかした?」
「あ、いえ」
平静を装うが胸はギュッと締め付けられ動揺を隠せない。なぜならここは相馬さんが初めてのデートで連れてきてくれた思い出の場所だったからだ。
店内に入り通されたのは不運にも以前来た時と同じ竹で仕切られた半個室型の席で、覚えのある料理が並び思わず唇をかんだ。
「口に合わなかった?」
心ここにあらずで料理にはまともに口をつけられない状態だ。
「そんなことないです」
お酒を飲んで誤魔化したけれど料理を口に運ぶたび巧さんとの思い出が蘇ってきてしまい、どうにも敵わなかった。
巧さんはあっさりと私を他人だと言って差し伸べた手を掴んではくれなかった。彼ならきっと助けてくれると信じていたのに手のひらを返したように態度を変える他の人たちと何も変わらず、心底失望した。
だからもう彼のことなんて嫌いになりたい。忘れてしまいたい。それなのに思い出すのは彼の優しいところや笑った顔ばかりで、どうして幸せだった記憶ばかり浮かんでしまうんだろう。
「なんで……」
無意識に一粒の涙が頬を伝い、その瞬間に驚いたようにこちらを見ていた一哉さんと目が合ってしまった。
「ごめんなさい」


