近くで見たらまつげは長くきめ細やかな肌をしていて、急に自分の顔が同じ距離で見られているかと思えば恥ずかしくなった。

 彼は背中に手を回してきてフィッティングルームに誘導した。

「沢井(さわい)、着付師を見つけてきた。後は頼む」

 部屋の中にいるショートヘアの女性に私を預けると彼はすぐに部屋を出ていった。すぐに状況を察した彼女に「こちらです」と奥へ連れていかれたら、何人もの女性がヘアセットをしたまま待っていた。

「時間がありません。宜しくお願いします」

 なぜこんなことに巻き込まれてしまったのか。訳も分からない中、ここまで来たらやるしかないと諦める。私はどうしようもなくなって流されるまま胸のあたりまで伸びた黒髪をぎゅっと後ろで結んだ。


「それ。三枚目ので進めて」

 やっと全員分の着付けを終えたのは日が暮れてきたころだった。腕組みをしながら指示を出している例の彼がみんなの中心になっているのが見える。

「私は放ったらかしですか」

 昼間からずっと閉店作業をしていたから先ほどからお腹がぐぅっと鳴って仕方がない。でも勝手に帰るわけにもいかず、どうせならバイト代でももらって帰ろうとソファに座り撮影が終わるのを待っていた。