「た、巧さん」

 脈打つ心臓が私の声を小さくする。

 引き留めようと絞り出した声に気づき彼はあからさまな作り笑いを見せる。首元に手をやり、ちらちらと周りを気にし始めた彼を見てせめてもの抵抗として服の袖をつまんでみたがすぐに私の手からすり抜けていった。

「ごめん、話しているところを見られるのは困るんだ」

 冷たく言い放つ言葉がグサッと心に突き刺さる。

「どうして」

 あれほど優しかった彼はまるで別人のようだった。

「君のお父さんの良くない噂が出回っている。家は借金まみれで、いろんなところからお金を借りて闇金にまで手を出してるって話だ」
「嘘です!」
「あ、ああ。もちろん、もちろん僕だって信じたわけじゃないけど。真実はどうあれうちの信用問題にも関わるんだ」

 話に尾ひれがついてどんどんあらぬ疑いをかけられている。信じたわけじゃないとは言いつつ先ほどから一度も目を合わせてくれない彼に、私は初めて失望した。

「助けてください」

 それでも私は歯を食いしばり、恥を忍んで頭を下げるしかなかった。

「お父さんを助けてください」
「結ちゃん頭上げてよ」