まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました

 日曜日の朝。

 この日のために新調したあざみの花があしらわれた淡い紫地の着物に身を包み、新幹線で会場へと向かった。

 呉服店や小売団体、染物屋などの有名企業が加盟している〝関東着物組合〟では一年に数回お茶会という名の定例交流会が開かれる。毎回会場は異なり、今日は北関東にある有名な寺院の庭園で行われる。


 余裕をもって出てきたから一時間以上早く着きすぎてしまい、私は駅の周りを散策しながら時間まで近くのカフェでコーヒーを飲んでいた。

 時間を持て余し携帯をいじろうとするものの、コンセントが上手くささっていなかったようで充電は五%もなく電源を落とした。


 受付開始時間の十分ほど前に会場へ向かった。

 立派なお寺の周りにはアジサイの花が咲き始め目を奪われる。数日前に梅雨入りして昨夜まで雨だったから天気を気にしていたけれど今日はよく晴れて安心した。アジサイに滴る雨水が太陽の光に照らされてあたり一面キラキラ輝いていた。

「あら、鷹宮のお嬢様でなくて?」

 するとそばを通りがかった女性たちが私を見てひそひそと何かを話すのが分かった。ふと周りを見渡せばだんだんと視線を感じるようになり、以前まで親切に話しかけてくれていた人たちまで冷ややかな目でこちらを見ていた。

「よくお顔を出せたものね」

 すれ違いざまに聞こえてきた言葉に戸惑いを隠せない。私がいることでただならぬ空気になっているように感じ、突然の事態に目を泳がせ後ずさる。

「結」

 そのとき腕を力強くつかまれたかと思うと目の前にはなぜか父が立っていた。

「どうしてここへ……」
「話はあとにしよう。帰るぞ」

 訳も分からず手を引かれる私は近くに停まっていた父の専用車の後部座席に乗せられた。