「どうして勝手に出ていったりした」
「一哉さん、なんで」
「どうして何も相談しない。そんなに俺が頼りないか」

 危うくシボリをつないでいるリードを離しそうになりながら後ずさっていく。声を荒げながら相当怒っているようでどうしたらいいかわからなかった。

「聞いたよ、若葉さんから」

 その名前にドキッとする。

 一瞬目を丸くしながら声が出そうになったけれど、聞いたとはどこまでの話かと安易に口にできず様子を伺いながら目を泳がした。

「全部知ってる。母親のことも、生まれた経緯もなにもかも。……君のお腹に俺の子供がいるってことも」

 混乱しているとさっきよりも人通りが増え始め、私は一哉さんに手を引かれ車に乗せられた。

 私の腕の中でおとなしく抱かれているシボリをぎゅっと抱きしめていると車はどこかに向かって発車する。

 運転中、彼は一言も発しなかった。免許なんて持っていたんだと初めてハンドルを握る彼にちらりと目を向けたら、不意に目が合ってしまい慌てて視線を逸らした。

 おもむろに車を停めて降りたのは海だった。十一月の海にはあまり人はいなくて、海岸沿いの石段に腰かける一哉さんの隣へ私はそっと腰を下ろした。