「疲れたか? 顔色があまりよくないけど」
「平気です。みなさんをお見送りしたらこれで終わりですし」
終わり。自分で言っておいてチクッと心に刺さった。そこにいろんな意味が含まれていることをお互いに分かっていて、彼は「ああ」とだけ小さく声を出した。
「今後とも月島旅館を宜しくお願いいたします」
夫婦でする最後の仕事。
ひとり、またひとりと旅館を出て行く来賓客を見送るたび、今日が終わってしまうという悲しさを噛みしめた。栞里さんとはあの時から一度も話しておらず、帰りも気まずそうに私たちの前を通りすぎ顔を合わせることはなかった。
「結ちゃん」
流れるように帰って行く人たちの中、私はすっかりこの人の存在を忘れていた。声だけですぐに分かったその人物の顔を恐る恐る見上げた私の前には巧さんが立っていた。
「本日はありがとうございました」
上手く笑えているだろうか。
一哉さんは一瞬私を遠ざけようとして肩に触れたけれど、ここで逃げたら負けだと思いしっかり笑顔を見せて対応した。もう以前の私とは違い、あなたのことは過去になったのだと見せたかった。
巧さんは驚いたように固まったものの、すぐにホッとしたような顔を見せる。そして何も言わず一歩下がったかと思えば深々と頭を下げてきた。
言葉はなくてもただその姿勢が全てを物語っているような気がしてなんだか悔しくなった。
こんなことで済ませてほしくない。じんわりと目は潤み唇が震えた。しばらく頭を下げた彼は顔を上げ、唇をぎゅっと噛んで真っ直ぐ私を見つめてきた。
「平気です。みなさんをお見送りしたらこれで終わりですし」
終わり。自分で言っておいてチクッと心に刺さった。そこにいろんな意味が含まれていることをお互いに分かっていて、彼は「ああ」とだけ小さく声を出した。
「今後とも月島旅館を宜しくお願いいたします」
夫婦でする最後の仕事。
ひとり、またひとりと旅館を出て行く来賓客を見送るたび、今日が終わってしまうという悲しさを噛みしめた。栞里さんとはあの時から一度も話しておらず、帰りも気まずそうに私たちの前を通りすぎ顔を合わせることはなかった。
「結ちゃん」
流れるように帰って行く人たちの中、私はすっかりこの人の存在を忘れていた。声だけですぐに分かったその人物の顔を恐る恐る見上げた私の前には巧さんが立っていた。
「本日はありがとうございました」
上手く笑えているだろうか。
一哉さんは一瞬私を遠ざけようとして肩に触れたけれど、ここで逃げたら負けだと思いしっかり笑顔を見せて対応した。もう以前の私とは違い、あなたのことは過去になったのだと見せたかった。
巧さんは驚いたように固まったものの、すぐにホッとしたような顔を見せる。そして何も言わず一歩下がったかと思えば深々と頭を下げてきた。
言葉はなくてもただその姿勢が全てを物語っているような気がしてなんだか悔しくなった。
こんなことで済ませてほしくない。じんわりと目は潤み唇が震えた。しばらく頭を下げた彼は顔を上げ、唇をぎゅっと噛んで真っ直ぐ私を見つめてきた。


