まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました

「あいつが俺を好きにはならないと思ったからだ。最後にすっぱりと別れられるなら都合が良かった」

 ああ、そうか、と分かっていた事実を改めて突きつけられる。尚更言えなくなったお腹に手を当てひとりで戻ろうと振り返ったら、いつの間にか立っていた女将を見て思わず後ずさった。

「ならうちは結婚なんて言わないさかい」
「勘弁してくれ」

 声を荒げるふたりの会話がヒートアップしてきて、さすがの女将も呆れたように私の前を通り過ぎて部屋の前に立つ。

「はしたない。そんな会話を誰かに聞かれでもしたらどうするつもりです」

 しんと静まり返る空気に場が凍りつく。壁にもたれかかり息を潜めていた私の背の向こうでふたりがどんな顔をしているのかも分からなかった。

「このふたり契約結婚なんどす。みんなを、女将を欺いて騙してはります」

 栞里さんのヤケになったような言い草にドクンと心臓が跳ねる。契約はあともう少しだったのにはっきりと女将の耳にも入ってしまった。

「知っています」

 しかし想定外に女将は冷静だった。驚いて顔を上げた私がじっと見つめる中、女将は顔色ひとつ変えず真っ直ぐふたりの方を見据えていた。

「知っとって止めへんかったんどすか」
「これは月島の問題。今となっては婚約を解消した栞里さんにとって関わりないこと。もし月島の名に傷をつけるようなことがあればいくらあなたでも許しませんよ」

 女将の一喝に栞里さんはたまらず走って部屋を後にした。