まもなく離縁予定ですが、冷徹御曹司の跡継ぎを授かりました

「一哉さんは?」
「私も探しているんですけど見当たらなくて」

 一時間後、式典が始まろうとしているというのに彼の姿がどこにもない。皆で慌てて探し回っているけれどなかなか見つからず、時間にはきっちりしている人が珍しいと思った。

「なんでうちじゃだめなん」

 客室の方まで行ってみたら微かにそう言う声が聞こえてきた。

「もう式典が始まる、戻ろう」
「一哉はあの子が現れてから急に冷たなった。どうせ契約結婚なんやろ? せやったらうちとおったってええやん」

 この京都弁は紛れもなく栞里さんのもので一緒にいるもうひとつの声は一哉さんだ。周りに会話を聞こえないようにするためか貸切で誰もいない椿の間で話すふたりの会話は、扉を開けっぱなしにしているせいで廊下に丸聞こえだった。

「愛人としてでもええからそばにおりたい」

 幸いみんなが集まる大広間から遠いから誰も通らないだろうが、こんなところでする会話にしては大胆だ。

 心がぎゅっと締め付けられその場から動けなかった。

「もう行く」
「待って。なんであの子やったん?」

 こちらに来ると思い隠れようとしたけれど、ふたりの足音はすぐそばで止まった。私は栞里さんの問いかけに対する答えも気になって耳をすませていた。